ヘルパー機能を有するCD4T細胞と、キラー活性を有するCD8T細胞の運命決定は、未熟胸腺細胞が正の選択によって受け取るTCRシグナルの長さに依存する。一方で、未熟胸腺細胞は正の選択リガンドに対して様々なアフィニティを持つTCRを発現していることから、分化過程にある個々の細胞の受け取るTCRシグナルは様々であることが予想される。MHC-II依存的なTCRシグナルは、持続的であり、正の選択を受けた細胞は全てヘルパー機能を有することがわかった。一方で、MHC-I依存的なTCRシグナルは、正の選択によってもたらされるCD8の発現低下に伴って減弱することが、キラー活性を有するCD8T細胞への分化に必須であることがわかった。興味深いことに、MHC-I依存的なTCRシグナルであっても約53時間を超えると、ヘルパー機能を獲得し得ることが判明した。CD8コレセプターは、CD4コレセプターに比較して、チロシンキナーゼLckの会合が弱く、細胞内シグナルを伝える能力が低いことが知られている。この事実は、細胞運命決定エラーを防ぐために自然界が作り出した機構であると考えられる。この結果は、T細胞の胸腺内分化を理解する上で非常に重要であり、この分野の今後の発展に大きく貢献するものと考えられる。 さらに平成29年度は、「強いTCRシグナルがT細胞分化に与える影響」について解析を進めた。CD69分子は、胸腺内で正の選択を受けた細胞全てに発現が見られるが、その欠損マウスでは、通常のCD4T細胞CD8T細胞の分化に影響は見られない。一方で、CD69欠損マウスでは、NKT細胞サブセットの分化に違いをもたらすことがわかってきた。この結果は、CD69分子が胸腺内の細胞分化に影響を与えるという新しい知見であり、今後その分子機構を解明することは、この分野の発展に大きく貢献すると考えられる。
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