研究課題/領域番号 |
15K08533
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
中島 章人 順天堂大学, 医学部, 非常勤助教 (30439294)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 短鎖脂肪酸 / 制御性T細胞 / 胸腺 |
研究実績の概要 |
最近の研究成果から、母親の妊娠期や授乳期の食事がこどもの将来にわたる健康や発達に影響を及ぼすことが示されている。近年、腸内細菌によって食物繊維から代謝される短鎖脂肪酸(Short Chain Fatty Acids: SCFAs)は制御性T細胞(Treg)の産生を誘導することが明らかにされたことから、本研究では妊娠期の母親のSCFAsを増やすことで胎児にSCFAsが移行し、出生時からのこどもの胸腺由来のTregを増やすことができるかどうか検討することを目的とした。Treg細胞はアレルギーや自己免疫疾患などの過剰な免疫反応の抑制に重要な働きをすることが示されている。出生時からTreg細胞を増やすことができればこどものアレルギー疾患のみならず、将来的なアレルギー疾患や自己免疫疾患を予防し減らせないかと考えた。 胸腺は胎児期から乳幼児期を通して臓器として最も発達し、T細胞の分化や選択を活発に行う。Treg細胞は胸腺から分化するT細胞のサブセットの一つであり、出生後から胸腺で作られる。胸腺でのTregの分化に腸内細菌が関与しているという報告はこれまでにないが、これまでの我々の研究から腸内細菌の産物が胸腺のネガティブセレクションに関与するAire遺伝子の発現を制御していることが示されており(Nakajima et. al, PLoS One, 2014)、腸内細菌が胸腺の細胞の遺伝子発現などに影響を与えていることが明らかになりつつある。 本研究を通じて①妊娠期の母親の腸管で産生されたSCFAsがこどもに移行して生まれて来たこどものTregを増やすこと、②胸腺においてSCFAsがTregを増やすメカニズムを明らかにすることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、精製飼料である無繊維食もしくは水溶性食物繊維を食べたマウスの糞便から短鎖脂肪酸(SCFAs)の濃度をガスクロマトグラフィーで測定すると、水溶性食物繊維を食べたマウスの糞便ではSCFAs (酢酸、プロピオン酸、酪酸)の濃度が高くなることを確認した。また、腸管のTreg細胞を調べると、これまでの報告通り水溶性食物繊維を食べさせたマウスの方がTreg細胞が多かった。 次に、妊娠マウスに無繊維食もしくは水溶性食物繊維を食べさせ、生まれて来たこどものTreg細胞の数を検討した。生まれて来たこどもの胸腺を摘出し、TregのマーカーであるFoxp3陽性の細胞の割合と数をフローサイトメータで解析した。生後直後の水溶性食物繊維を食べたマウスから生まれたこどもは無繊維食を食べた母親から生まれたマウスよりもFoxp3陽性のTreg細胞の割合と数が多かった。この実験では、母親に出生後も無繊維食もしくは水溶性食物繊維を食べさせ、授乳期は同じ母親の母乳で仔マウスを育てさせた。興味深いことに、生後20日前後まで胸腺Tregの差は認められたが、それ以降は胸腺Tregの数に差が認められなかった。このことは、妊娠期と授乳期の母親由来のSCFAsがこどもの胸腺Tregの産生に重要であることを示唆している。 次に、胎児期の胸腺にSCFAsが作用してTregを誘導するかをin vitroの実験で検討した。胎児胸腺臓器培養(FTOC)を用いて、胎児胸腺をSCFAs存在下で培養した。その結果、SCFAsである酢酸、プロピオン酸、酪酸と共培養することでFoxp3陽性Tregが誘導されることが明らかになった。 現在は、どのようなメカニズムでSCFAsがTregを誘導するかを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験から、SCFAs刺激により、胸腺Tregが誘導されることが明らかになった。そこで今後はどのようなメカニズムでSCFAsがTregを誘導するかを検討する。これまでに腸管内におけるTregを誘導するメカニズムとして、SCFAsの一つである酪酸のHDAC阻害としての作用が示されている(Furusawa et al, Nature, 2013)。そこで胸腺Tregの産生においても腸管と同じように酪酸がHDAC阻害剤として作用するかをHDAC阻害剤であるtrichostatin A (TSA)を用いて検討した。胎児胸腺臓器培養(FTOC)の系でTSAを処理して72時間後にFoxp3陽性細胞を解析すると未刺激と比較してFoxp3陽性細胞は増加しないことが明らかになった。 そこで酪酸のもう一つの作用機序であるGPR41レセプターを介した機能について検討することにした。これまでの研究成果から、酪酸はGPR41レセプターを介して細胞内にシグナル伝達することが明らかになっている(Kimura et al, Nat Commun, 2013)。しかしながらこれまでに胸腺の細胞におけるGPR41の働きついては全く明らかにされていないので、まず胸腺内の細胞におけるGPR41レセプターの発現を検討した。セルソーターを用いて胸腺細胞からCD4+T細胞、樹状細胞、胸腺上皮細胞(TEC)をそれぞれソーティングした。細胞からRNAを抽出し、PCRを用いてGPR41レセプターの発現を解析すると、CD4+T細胞と樹状細胞ではほとんど認められなかったが、TECにおいて強く発現が認められた。TECは胸腺でT細胞の分化や選択に関わる上皮細胞である。TECにおいてGPR41レセプターが強発現していたことから、酪酸はTECを介してTregの産生に関与している可能性があり今後明らかにしていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定よりもわずかに物品購入の使用額が少なかった。見積を取ることで、コストの削減に努めたためと考えている。次年度の消耗品購入に繰り越すことにしたい。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越せる額は、消耗品購入費に繰り越すことにしたい。
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