本研究では妊娠期や授乳期の母親の腸管内で産生される短鎖脂肪酸(SCFAs)が子供に移行し、子供の制御性T細胞(Treg)の産生に影響するか検討した。その結果、①水溶性食物繊維を食べた母親の腸管内ではSCFAsが多く産生され、妊娠後期には特に酪酸が血漿中に増加すること、②水溶性食物繊維を食べた母親から生まれた子供の血漿中のSCFAs濃度を調べると、無繊維食を食べた母親の子供よりもSCFAsが増加していること、③生後直後の胸腺と脾臓のTregの数を検討すると、水溶性食物繊維を食べた母親から生まれた子供の方が無繊維食を食べた母親の子供よりもTregの数が多いこと、④胎児胸腺を培養し酪酸で刺激実験(FTOC)を行うと、胸腺Tregが増加すること、⑤酪酸は胸腺上皮細胞上に発現するGPR41レセプターを介して、ネガティブセレクションやTreg産生に関与するAireという遺伝子を発現させ、Tregの産生に関与していることが明らかになった。 本研究の結果より、母親の腸管内において腸内細菌によって水溶性食物繊維から産生されたSCFAsが妊娠期や授乳期に子供に移行し、子供の胸腺内でのTregの産生に関与していることが明らかになった。そのメカニズムとして酪酸のレセプターであるGPR41を介してTreg産生に関与するAire遺伝子の発現を上昇させることを明らかにした。この研究成果は母親のSCFAsが子供の胸腺Tregの産生に関与する新しいメカニズムを提示するもので、腸内細菌の新しい役割を示したものと言える。腸内細菌は腸管内だけでなく全身の免疫システムに影響を与えているとされているが、母親の腸管内で産生されたSCFAsが胎児~新生児期の胸腺の細胞選択にも影響を与えている可能性を示唆する結果である。 以上の研究成果は研究最終年度の2017年にJournal of Immunologyに発表した。
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