研究課題
シグナル伝達の中心的役割を担う分子を標的とした現行の薬剤はシグナルそのものを抑制するため深刻な副作用が懸念される。シグナルの活性動態を操作することによる特異的な遺伝子群の発現制御が可能であれば脱分化(癌)、過分化(自己免疫疾患)治療への新規戦略になりうる。数理モデル解析ではシグナル動態操作による特異的な遺伝子群の発現制御が理論上可能であることが示されている。本課題ではシグナル動態操作による特異的な遺伝子群の発現制御は本当に可能かどうかを明らかにすることを目的としている。申請者はB細胞を用いた系で、分化誘導可能な刺激によるシグナルの活性動態に関与している分子を既に6遺伝子同定している。このシグナル動態を制御する候補分子の形成するシグナルネットワークと分化誘導に関わる機能解析を行い、特異的な分化関連遺伝子群の発現とB細胞分化の制御を試みる。これまでの解析から得ているNF-κB活性動態を制御する候補分子Xは、同定している6分子の中で唯一正にシグナル動態を制御していることから、シグナルの活性化動態と誘導される遺伝子の発現動態を定量的・経時的に計測し、数理モデル解析を行い、B細胞受容体シグナルの活性動態を正に制御し、その維持に必要であることを見出している。現時点でここまでを論文にまとめ近く出版される予定である。この解析の知見を基に、NF-κB活性動態の操作に必要な候補分子Xの機能部位の推定を行い遺伝子発現への影響を会席する予定である。
3: やや遅れている
候補分子Xは遺伝子発現を介して正の動態制御に関わり、かつ早期のシグナル伝達にも関わるため、その遺伝子欠損はシグナル活性そのものを大きく減衰させる。そのため候補遺伝子の改変は文献情報とモデルによるシミュレーションにより後期のシグナルネットワークに関与するアミノ酸部位の変異が望ましい。候補遺伝子の機能部位が不明であるため、定量質量分析から機能部位の同定と関わるネットワークの推定を行っている。
候補分子Xの遺伝子欠損はシグナル活性そのものを大きく減衰させるため、対応策として刺激後阻害剤を添加し、活性動態を操作した細胞の時系列、濃度依存的遺伝子発現を次世代シークエンサにて大規模定量データを取得している。この大規模定量データの統計学的解析を行い、シグナルの動態と相関する遺伝子群が動態操作により分化に関連して特異的に制御されているかどうかを評価する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件)
Immunology and Cell Biology
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Scientific Reports