研究課題/領域番号 |
15K08536
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 貴志 国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, チームリーダー (00415225)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪肝炎 / PDLIM2 / ユビキチンリガーゼ / 腸内細菌 / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、脂質代謝異常に伴って発症する脂肪肝に炎症や線維化を伴った病態であり、高率に肝硬変や肝癌に進行することが問題となっている。 PDLIM2欠損マウスは、ハーバード大学の動物施設で飼育した場合には、全例NASH様の病変を発症するが、理化学研究所の動物施設で飼育した場合には全くNASHを発症しない。昨年までに、無菌化したPDLIM2欠損マウスに、タコニック社のマウスの糞便を投与してタコニック社のマウスの腸内細菌を定着させるとNASH様の病変を発症することが明らかになっている。本年度は、まずNASH様病変を発症する詳細な条件を検討した結果、タコニック社のマウスの腸内細菌叢を有するPDLIM2欠損マウスの雄はオリエンタル酵母社のCMFという高カロリー食で飼育すると、8ヶ月でNASH様病変を高率に発症した。一方雌マウスは、CMFで飼育してもNASH様病変を発症しないが、日本クレア社のQuick Fat Dietという高脂肪食で飼育すると7ヶ月で全例NASH様病変を発症した。 さらに、腸内細菌のメタゲノム解析を行ったところ、理研の野生型マウス、タコニック社の腸内細菌をもつ野生型マウス、およびタコニック社のマウスの腸内細菌を有するPDLIM2欠損マウスは、それぞれ腸内細菌の構成が異なること明らかになった。また、このPDLIM2欠損マウスにおいては、ACC1やFASなどの肝臓の脂肪合成に関与する酵素、およびクッパー細胞のCCL2というケモカインの発現が野生型マウスと比べて亢進していた。以上より、PDLIM2欠損マウスでは、タコニック社のマウスの腸内細菌叢および高脂肪食により腸内細菌叢が変化し、これに伴って産生された腸内細菌の代謝物や菌体成分が門脈を経由で肝臓へと流入して肝臓の脂質代謝や炎症反応を亢進させることでNASH様病変が発症するのではないかと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、タコニック社のマウスの腸内細菌を移植したPDLIM2欠損マウスが、非アルコール性脂肪肝炎を発症する飼育条件および発症する週齢を詳細に検討することにより、NASH様病変を再現性よく誘導できる条件が見出せた。これによりPDLIM2欠損マウスにおける非アルコール性脂肪肝炎の発症のメカニズムを解析する際の条件が整った。さらに、上記に示したように、研の野生型マウス、タコニック社の腸内細菌をもつ野生型マウス、およびタコニック社のマウスの腸内細菌を有するPDLIM2欠損マウスの糞便のサンプルがある程度そろったため、腸内細菌のメタゲノム解析を行うことができた。未だ原因となる腸内細菌の同定には至っていないが、これらのマウスのおいて、それぞれ腸内細菌の構成がそれぞれ異なることを明らかにした。 ただ、上記のように、非アルコール性脂肪肝炎の病態が得られるのに8-10ヶ月を要するため、予想以上に時間がかかっているのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、昨年に引き続き、PDLIM2欠損マウスがNASHを発症する分子メカニズムを解析する。野生型およびNASHを発症したPDLIM2欠損マウスの肝臓およびクッパー細胞のRNAを用いてマイクロアレイ解析を行い、脂肪肝やNASHの病態において特異的に変化している遺伝子群を同定することにより、クッパー細胞の過剰な活性化が肝炎を引き起こす分子メカニズムを解明する。さらには、門脈経由で肝臓へと流入してNASHの病態形成に関与すると考えられる腸内細菌の代謝物や菌体成分の同定を試みる。具体的には、糞便・末梢血・門脈血の中の水溶性および脂溶性の代謝産物のメタボローム解析を行い、タコニック社のマウスの腸内細菌を有するPDLIM2欠損マウスで特異的に増減している代謝産物や菌体成分を同定する。 また、PDLIM2欠損マウスには何らかの脂質代謝異常が存在することから、PDLIM2は脂肪細胞のシグナル伝達経路においても、ユビキチンリガーゼとして核内の転写因子を不活性化するように機能する可能性があると考えられる。脂肪細胞においては、SREBP-1, PPARγ, C/EBPα;β;δなどの転写因子が脂質代謝や脂肪細胞の分化において重要な役割を果たしていることが報告されている。そこで、PDLIM2がこれらの転写因子をユビキチン化・分解・不活性化することができるかどうかを調べる。さらに、PDLIM2欠損マウスおよび野生型マウス由来の胎児性線維芽細胞を採取し、これにインスリンやキサンチン誘導体などを加えることにより、in vitroで脂肪細胞に分化させる。このときの脂肪分化の程度が、PDLIM2欠損細胞において亢進しているかどうかを検討する。差が認められた場合には、これらの細胞を用いて、DNAマイクロアレイによりPDLIM2の欠損により変化している脂質代謝関連遺伝子やシグナル伝達因子を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、タコニック社のマウスの腸内細菌を移植したPDLIM2欠損マウスがNASH様病変を再現性よく誘導できる条件が見出せた。さらには、野生型マウス、タコニック社の腸内細菌をもつ野生型マウス、およびタコニック社のマウスの腸内細菌を有するPDLIM2欠損マウスの糞便のメタゲノム解析を行い、これらのマウスのおいてそれぞれ腸内細菌の構成がそれぞれ異なることを明らかにした。 しかしながら、NASHの病態が得られるのに8-10ヶ月を要するため、実験を行うのに予想以上に時間がかかっているのが現状である。そのため、未だ原因となる腸内細菌の同定には至っていないし、クッパー細胞におけるマイクロアレイ解析などもまだ実施できていないため、これらの実験に関連する予算を次年度に繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
腸内細菌同定解析に60万円、組織検査費用に20万円、細胞分離培養試薬に15万円、マウスおよび飼料に20万円、マイクロアレイ解析に50万円、タンパク質・RNA解析試薬に30万円を使用予定である。
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