研究課題/領域番号 |
15K08542
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
冨尾 淳 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10569510)
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研究分担者 |
佐藤 元 国立保健医療科学院, その他部局等, その他 (70272424)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 健康危機管理 / リスクコミュニケーション / 医療行動学 |
研究実績の概要 |
本研究は、健康危機発生時の行政や保健医療機関等と一般市民とのコミュニケーションについて、国内外の事例を行動科学および政策科学の視点から分析・検証し、わが国の現状に即したリスクコミュニケーションの手法を開発することを目的としたものである。 平成27年度は、国内外の災害・健康危機リスクコミュニケーションの手法について、文献ならびに既存のガイドラインのレビューを行った。特に米国の医療機関において災害等の緊急事態対応システムとして使用されるHospital Incident Command System(HICS)について分析し、組織的な緊急事態対応の中でのコミュニケーションの意義と位置づけについて情報の整理を行った。HICSについては関連資料の日本語訳を作成しており、ウェブサイトを通じて公開の予定である。 実際の健康危機関連の事例評価として、英国および国内においてエボラウイルス病(EVD)の患者あるいは疑い患者を受け入れた医療機関の担当者にインタビューを行い、当時の対応ならびにコミュニケーション上の課題について情報収集を行った。コミュニケーションに関する組織体制や実際の対応および提供したメッセージの内容については、施設間の差異が大きいことが明らかとなった。特に国内の医療機関においては、外部の関係機関との情報共有とメディアとの関わり・対応について課題があることが明らかとなった。また、疑い患者の受け入れによる診療への影響は概して小さかったものの、診療科単位では受診者数が減少したという報告もあった。同時期に実施した一般市民を対象としたインターネット調査の結果では、EVD疑い患者を受け入れた医療機関の受診を忌避すると回答した者が相当数みられており、効果的な対策やメッセージの伝え方等について今後検討を続ける。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・国内外の健康危機リスクコミュニケーションの手法について、文献ならびに既存のガイドラインのレビューを行い、健康危機のフェーズ(平時、発災直後、復旧復興など)や地域及び住民の特性に着目し整理することができた。 ・災害時等に医療機関で活用可能なシステムである、Hospital Incident Command Systemについて分析、翻訳を行い、学会等で紹介することができた。 ・海外の行政機関の視察は実施できなかったが、実際にエボラウイルス病患者(疑いを含む)対応を行った医療機関の視察により、医療機関のコミュニケーションの現状と課題について有益な事例収集ができた。
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今後の研究の推進方策 |
・災害拠点病院や第一種感染症指定医療機関など、特に健康危機に際しての役割が期待される保健医療機関における要援護者(患者等)との平時・緊急時のコミュニケーションの現状について、災害対策マニュアルや担当者の取材により検証し、課題抽出する。 ・上記ならびに27年度に整理したリスクコミュニケーションの手法やHospital Incident Command Systemの内容について、国内の複数の自治体(都市部と地方を含む)ならびに保健医療機関において、質問紙調査を実施し、行動科学的側面からわが国において効果的な「適切な行動に結びつく」コミュニケーション手法を明らかにする。 ・海外の研究協力者の協力のもと、健康危機発生時のリスク認知、リスク回避に関する国際比較アンケート調査をインターネット経由で実施する。 ・上記調査結果をもとに、わが国の公衆衛生行政機関・保健医療機関で利用可能なリスクコミュニケーション手法のガイドラインの原案を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外の行政機関の訪問について、28年度中に日程調整ができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
28年度中に海外の行政機関と日程調整を行い訪問する。 旅費の執行にあたっては、国際学会と同時期にする、複数機関を同旅程で訪問する等配慮して行う。
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