研究課題/領域番号 |
15K08548
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
高橋 健太郎 滋賀医科大学, 医学部, 特任教授 (20163256)
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研究分担者 |
越田 繁樹 滋賀医科大学, 医学部, 特任講師 (70372547)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 医療社会学 / 地域周産期医療学 |
研究実績の概要 |
平成19年から平成25年の7年間の滋賀県における後期死産279症例および新生児死亡136症例の後方視的検討を行った結果、後期死産症例においては死亡回避不可能が187件(67%)、死亡回避に検討の余地ありが64件(23%)、死亡回避可能が20件(7%)、解析不能が8件(3%)であった。後期死産の回避に関する提言として、産科の妊娠・母体管理能力不足が少なからずあるとともに、妊娠知識の妊婦や社会への一層の啓発が必要であることが判明した。新生児死亡症例の検討から死亡回避不可能は99件(73%)、死亡回避に検討の余地ありが31件(23%)、死亡回避可能が5件(4%)、解析不能が1件(1%)であったが、これらのほとんどは出生後の新生児集中管理の問題よりもむしろ妊娠中からの産科の母体管理の改善の必要性が大いに関連していることが判明した。今回判明した後期死産・新生児死亡の周産期背景から死亡症例を回避するためには、今回得られた提言を県内周産期関連施設へ還元するのみならず、妊婦および社会への啓発が必要であることが判明した。また、診療所で出生した重症新生児仮死症例の新生児搬送システムおよび新生児科医応援システムが不十分である事や助産院での妊婦管理および医療機関連携システムの問題、さらには救急隊への滋賀県周産期ネットワークシステム利用方法の周知不足等のシステムの問題が判明した。 一方、社会的啓発の一環として妊婦で始めた妊娠34週より胎動を測定し記録させる胎動カウントの研究では平成27年度に817例の胎動カウントチャートが分娩後に回収出来た。正常分娩例の妊娠週数毎の散布度合いを計算したが、死産例は1例のみであり異常値の決定には至らなかった。しかし、県内分娩取り扱い施設中、胎動カウントを実施する施設は26施設(74%)で、胎動カウント普及前より倍増し今後の解析資料が集まりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度には6回の新生児死亡および後期死産症例の検討会を開催し、平成25年度までの症例の検討が終了した。先行研究で平成19年から平成23年までの5年間は解析が終了しているので、これに1年分追加し検討・解析が可能であり、周産期死亡回避の可能性の判定もでき、死亡回避のための提言を滋賀県主体の平成27年度周産期医療検討部会で行った。また、各種国内外の学会等で報告するとともに、地域の産婦人科医の会合さらには地域の母子保健従事者連絡会議に出席し、積極的に滋賀県の周産期医療の現状とその改善方法について、啓発活動を行い周産期医療環境の改善に寄与した。その結果、滋賀県においては日本初の母子手帳の中に妊娠リスクスコアーの項目と大津市では産後うつ病の予防の質問表の追加がなされ、母子の健康管理に大いに役立っている。 また、周産期死亡症例検討会に行政の陪席を積極的にお願いした結果、滋賀県健康医療福祉部健康医療課、各地域保健所、各自治体の担当保健師等の陪席があり、行政にも滋賀県における周産期医療の実情と緊迫感が直接行政に伝わったものと思われる。 滋賀県における周産期医療従事者(医師、助産師、看護師をはじめとするパラメディカル)の新生児蘇生技術向上を目的として、平成27年度は日本周産期・新生児医学会の学会事業である新生児蘇生法普及(NCPR)事業による学会認定の新生児蘇生法「専門」コース(Aコース)講習会を2回開催および支援した。さらには心臓病胎児診断症例報告会in 滋賀を9回開催した。このような実習を取り入れた講習は、講習修了者の技能のレベルアップにつながり、少なからず滋賀県における新生児医療の改善および新生児死亡の減少をもたらしているものと思われる。 このように、ほぼ研究計画通りに順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、滋賀県内で発生した新生児死亡および後期死産症例の調査結果を詳細に後方視的に共通の視点で検証できる事例検証委員会で分析し、新生児死亡および後期死産症例の回避の可能性を検討する。 妊婦への胎動カウントの普及を行うことは今後の解析資料の収集から胎動減少を自覚後に速やかに受診を行えば、死産を回避できる症例がかなり存在している可能性の証明がなされる事のみならず、胎動自覚から胎児の自覚、母親としての胎児への意識の集中、ひいては母性の獲得の推進に寄与することが考えられる。 また、死産や新生児原因が不明である症例に対してAutopsy Imagingを用いて原因分析することは死亡回避の有効な対策を講じることにつながる。Ai検討は産科、新生児科、病理科、放射線科の複数の医師の連携を密にすることが必須である。また、CT検査やMRI検査は元来、生体で行うための医療機器であり、死胎での病理解剖との比較検討が十分に行われたのちに施行されることが重要であるので、平成27年度はこれら本研究を遂行するに当たたり、環境の整備に努めたところであるが、幸い医療事故調査制度でのAIシステムが構築されたので、これらを積極的に利用し、症例を集め検討する。 これまでの検討で周産期医療において、不幸な事例を未然に防止するための対策の大きな柱は住民に対する「お産の安全神話の是正」を含めた、妊娠・分娩・子育てに対する正しい知識の啓発である。短期的には現時点で子供を産み育てる年代の啓発運動であるが、長期的な観点からは、思春期を対象とした、命の大切さ、望まない妊娠予防、性感染症の予防、がん教育等が必要である。そこで、積極的に学校に出向き、出前授業を行うとともに学校保健委員会の中で養護教員や学校保健委員へ「命の大切さの講義」を行うことが将来を担う滋賀県民への妊娠・分娩に対する正しい知識の啓発活動の一手段と思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は順調に「後期死産および新生児死亡症例検討会」が開催できたが現在ある物品をより効率的に使用するため、物品の購入を平成28年度に持ち越したのと啓発活動での出張講演回数が少なかったために、平成27年度に使用予定であった研究費が若干持ち越しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は平成27年度研究計画分も実施予定であるので、当初の計画通り、平成28年度の計画に基づき、効率的に使用する。したがって、平成28年度の研究費使用は平成27年度分と平成28年度分の予定である。
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