研究課題
滋賀県周産期死亡の改善を目的とし、死産票および死亡小票を参考に死産および新生児死亡症例を検討した。平成19年5月に第1回の周産期死亡症例検討会を開催し、これまで39回同検討会を開催し、平成19年から平成27年までの9年間の死産および新生児死亡症例の検討を終えた。同期間における人口動態統計上の死産及び新生児死亡はそれぞれ429例、157例であり、これまで周産期死亡症例検討会にて検討した症例は死産367例(86%)、新生児死亡156例(99%)で、ほぼ滋賀県全体の統計解析がもれなく行われていると解釈できる。解析した症例のうち回避可能と判断された症例は死産、新生児死亡それぞれ26例(7.1%)、5例(3.2%)であった。後期死産の回避に関する提言として、産科の妊娠・母体管理能力不足が少なからずあるとともに、妊娠知識の妊婦や社会への一層の啓発が必要であることが判明した。また、新生児死亡症例の検討から死亡回避には出生後の新生児集中管理の問題よりもむしろ妊娠中からの産科の母体管理の改善の必要性が大いに関連していることも判明した。これらの提言を県内周産期関連施設へ還元するのみならず、妊婦および社会への啓発を行っているところであり、年間の死産数及び新生児死亡数も減少傾向である。平成19年から平成23年までの5年間と平成24年から平成28年までの5年間を比較する最終目標は来年度の検討結果から検討する予定であるが、平成19年の厚労省発表の周産期死亡率(出産千対)は6.2で全国44位と下位であったが平成29年には2.4で全国1位の良好な結果となり、研究の成果が極めて顕著に現れた。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度には5回の新生児死亡および後期死産症例の検討会を開催し、平成27年度までの症例の検討が終了した。平成23年までの先行研究での5年間に4年分追加し、周産期死亡回避の可能性を判定し死亡回避のための提言を滋賀県主体の平成29年度周産期医療検討部会で行った。また、各種国内外の学会等で報告するとともに、地域の産婦人科医の会合さらには地域の母子保健従事者連絡会議に出席し、積極的に滋賀県の周産期医療の現状とその改善方法について、啓発活動を行い周産期医療環境の改善に寄与した。特に平成29年度も昨年度に引き続き仏語圏アフリカ地域の行政官対象としての妊産婦の健康改善を目的としたJICA研修を2回行い、アフリカ地域における妊産婦管理に研究成果を還元できた。さらに、今年度は妊産褥婦ヘルスケアの一環として、母子の健康管理およびにうつ対策の問題点を行政とともに検討したので、今後その結果に基づき対策案を積極的にすすめる予定である。また、滋賀県における周産期医療の実情と緊迫感を直接行政に伝え、対策案を行政が現実的に受け入れ易くするために、引き続き周産期死亡症例検討会に県・市町の周産期担当者の陪席を認めている。滋賀県における周産期医療従事者(医師、助産師、看護師をはじめとするパラメディカル)の新生児蘇生技術向上を目的として、平成29年度も日本周産期・新生児医学会の学会事業である新生児蘇生法普及(NCPR)事業による学会認定の新生児蘇生法「専門」コース(Aコース)講習会を1回開催した。さらには心臓病胎児診断症例報告会in 滋賀も開催した。このような実習を取り入れた講習は、講習修了者の技能のレベルアップにつながり、少なからず滋賀県における新生児医療の改善および新生児死亡の減少をもたらしているものと思われる。 このように、ほぼ研究計画通りに順調に進捗している。
引き続き、滋賀県内で発生した新生児死亡および後期死産症例の調査結果を詳細に後方視的に共通の視点で検証できる事例検証委員会で分析し、新生児死亡および後期死産症例の回避の可能性を検討し、先行研究5年間とその後の5年間の周産期統計の数値を比較検討し、提唱した対策が正しいことを証明する。平成27年における県内死産症例52件のうち、胎動減少・消失を自覚したのは23件(44%)あり、その中で24時間以内に医療機関を受診したのは12件(52%)であった。未だ胎動カウントチャートの収集段階であり、解析結果を待たなくてはいけないが、妊婦への胎動カウントの普及を行うことは胎動減少を自覚後に速やかに受診を行えば、死産を回避できる症例がかなり存在している可能性があるのみならず、胎動自覚から胎児の自覚、母親としての胎児への意識の集中、ひいては母性の獲得の推進に寄与することが考えられる。少ない比較ではあるが平成26年(4件、29%)と比較して、胎動減少を自覚後に速やかに受診行動に移していることが伺われる。これまでの検討で周産期医療において、不幸な事例を未然に防止するための対策の大きな柱は住民に対する「お産の安全神話の是正」を含めた、妊娠・分娩・子育てに対する正しい知識の啓発である。短期的には現時点で子供を産み育てる年代の啓発運動であるが、長期的な観点からは、思春期を対象とした、命の大切さ、望まない妊娠予防、性感染症の予防、がん教育等が必要である。そこで、積極的に学校に出向き、出前授業を行うとともに学校保健委員会の中で養護教員や学校保健委員へ「命の大切さの講義」を行うことが将来を担う滋賀県民への妊娠・分娩に対する正しい知識の啓発活動の一手段と思われる。
平成29年度は順調に「後期死産および新生児死亡症例検討会」が開催できたが現在ある物品をより効率的に使用するため、物品の購入を平成30年度に持ち越したのと啓発活動での出張講演回数が少なかったために、平成29年度に使用予定であった研究費が若干持ち越しとなった。平成30年度は平成29年度研究計画分も実施予定であるので、当初の計画通り、平成30年度の計画に基づき、効率的に使用する。したがって、平成30年度の研究費使用は平成29年度分と平成30年度分の予定である。
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