平成16年に「病気は診るが、人は診ない」医師を養成すると評されていた従来の臨床研修制度に代わって、「医師としての人格の涵養」を基本理念に掲げた新医師臨床研修制度が開始された。2年以上の初期臨床研修が必修化されたが、どのような研修プログラムが医師としての人格を涵養するのかという客観的評価は定まっていない。また、医師のプロフェッショナリズムにおいて、患者に対する医師の優れた「共感性(Empathy)」は、医師として育成すべき人格のひとつと考えられている。 これまで我々は、平成26年度岡山大学病院初期研修医20名を対象にした調査で、「共感性」スコアが研修開始後1年で低下したことを報告した。平成26年度岡山大学病院初期研修医20名に対する調査を継続したところ、研修開始後2年目は「共感性」スコアは大きく変化しなかった。平成27年度研修医41名の平均スコアは、研修開始時111点、1年後112点、2年後110点、平成28年度研修医36名の平均スコアは、研修開始時111点、1年後113点と、大きな変化を認めなかった。本邦の先行研究で、初期研修医の共感性が研修2年間で低下するとの報告があるが、本研究では、経時的調査で「共感性」スコアに大きな変化を認めない年度も認めた。解析では、研修開始時の「共感性」スコアが高いほど、1年後、2年後のスコアも高いことが示唆された一方、1年後、2年後にスコアが低下しやすいことも示唆された。 研修開始時に「共感性」スコアの高かった研修医1名に、研修開始後10か月で半構造化面接(個人面接)を実施し(平成27年度に実施)、SCAT(Steps for coding and theorization)を用いて内容分析を実施したところ、研修医の共感性に影響を及ぼす要素として5つの因子が考えられた。
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