研究課題/領域番号 |
15K08554
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
赤池 雅史 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 教授 (90271080)
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研究分担者 |
岩田 貴 徳島大学, 大学院総合科学研究部(教養教育院), 教授 (00380022)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コミュニケーション / 診療参加型臨床実習 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
診療参加型臨床実習学生は、患者、患者家族、指導医、メディカルスタッフとの多様なコミュニケーションが求められるが、診療現場でどのような問題が発生しているかは不明な点が多い。本研究の目的は医学科臨床実習学生の対人コミュニケーションの問題事例を収集し、それを解決するための臨床実習準備教育トレーニングプログラムを開発することである。平成28年度は、前年度に引き続いて、徳島大学医学部医学科6年次全員を対象に、患者、患者家族、指導医、看護師等のメディカルスタッフ、同級生、上級生、他学科学生とのコミュニケーションの実態について、自記式質問票による無記名アンケート調査を実施した。また、学生教員懇談会において医学科学生代表からインタビューによる情報収集を行った。さらに、看護師長および指導教員等から学生による問題行動の具体的事例を聴取した。これらと並行してデブリーフィング手法を取り入れた指導法解説動画を作成した。 この結果、医学科学生が対応に困難さを感じた事例の回数は、10回以上8.2%、5~9回8.2%、1~4回46.3%、全くなかった37.3%であり、前年度と比べて増加していた。その相手は、多い順番に患者29.2%、指導医 24.8%、看護師22.7%、患者家族13.3%、同級生8.8%の順であり、看護師以外のメディカルスタッフは1.8%と非常に少なく、上級生や他学科学生は0%であった。また、重症患者・末期患者や小児科患者家族との対応、病状説明を求められた際の対応について、トレーニングプログラムの開発が必要であることが明らかとなった。その一方で、看護師や指導医による冷たい態度や極端に厳しい態度等に対して、学生は我慢する等の回避行動で対処している現実が明らかとなった。さらに同級生との間で発生した問題についても、班のメンバーを変えるなど、回避的対応を希望する意見がほとんどであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2年目となる平成28年度においては、クリニカル・クラークシップの履修を修了した徳島大学医学部医学科6年次全員を対象として、患者、患者家族、指導医、看護師等のメディカルスタッフ、同級生、上級生、他学科学生とのコミュニケーションの実態について、自記式質問票を用いた無記名のアンケート調査を実施し、その回収率は94.8%で、昨年度のデータと合わせて、さらに豊富な事例を収集することができた。この結果、診療参加型臨床実習において対人コミュニケーションの問題が発生しやすいのは、患者、指導医、看護師、患者家族、同級生との関係であり、特に重症患者や末期の患者との対応、小児科患者の家族との対応、病状説明を求められた際の対応については、トレーニングプログラムの開発とその指導者用解説教材の作成が最優先であることを明らかとすることができた。さらに、看護師、指導医、同級生との問題は、当事者の学生自身が回避行動で対応している現状が明らかとなり、学生のコミュニケーション能力の向上だけでは対処できない複雑な状況を明確化することができた。その一方で、看護師以外のメディカルスタッフ、上級生ならびに他学科学生とのコミュニケーションの問題事例はほとんど発生していなかった。これは診療参加型臨床実習において多職種連携教育や屋根瓦式実習指導がほとんど実質化していない、あるいはその機会が非常に乏しいことを意味している可能性が高いと考えられ、今後これらを推進する際にはコミュニケーション教育と一体で取り組む必要性を明らかにすることができた。 このように、臨床実習現場におけるコミュニケーション不全についての問題点を具体的に抽出することができ、今後優先的に開発に取り組むべきトレーニングプログラムについても明らかにすることができた。これらは当初計画に沿ったものであり、おおむね予定通りに進行していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度においても医学科6年次を対象としたアンケート調査を継続し、問題事例の収拾を含めて対人コミュニケーションの問題点についてのデータベースの充実をはかる。また、これまでの調査で特に問題が多いが、具体的な解決方法が明らかではない看護師や指導医との対人コミュニケーションを改善するために、手術室を中心に複数の看護師や指導医との個別の構造化インタビューを新たに計画し、診療参加型臨床実習を開始するまでに医学科学生がコミュニケーション能力を含めてどのようなコンピテンシーを修得しておくことを要望・期待されているか、現状の臨床実習前教育ではどのような能力修得が不十分と考えられるかについて、明らかにする。これまでの調査でその機会が不十分であることが判明した多職種連携教育や屋根瓦式臨床実習については、4年次および5年次の医学科学生と薬学部学生や保健学科看護学専攻学生との多職種臨床実習カンファレンスを企画・実施し、その際に観察評価を行うことで、医学科学生が多職種や上級生と良好な関係を構築するためにどのようなコミュニケーション能力が必要かを明確化する。 トレーニングプログラムの開発については、これまでの調査で必要性が明らかとなった、重症患者や末期の患者との対応、小児科患者の家族との対応、病状説明を求められた際の対応をテーマとして、指導者用解説動画の改良、トレーニングシナリオの作成、評価表や評価マニュアルの作成に取り組む。さらにこれらのトレーニングを受けた臨床実習学生の学習成果の評価については、客観的臨床技能試験やworkplace assessmentにより実施し、トレーニングプログラムの成果評価を行う。その際にはworkplace assessmentについて、miniCEXを含めてその評価表と評価マニュアルを新たに開発し、その客観性や妥当性についてもあわせて検討する。
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