研究課題/領域番号 |
15K08559
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
田川 まさみ 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (90261916)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プロフェッショナルアイデンティティ / 医学教育 / プロフェッショナリズム |
研究実績の概要 |
医師は知識、技能だけではなく、医師としてのアイデンティティを有して社会の中で役割を果たす専門家である。本研究は医師育成をめざす教育プログラムにおいて、医学生、研修医が医師に求められる社会性(患者・社会に対する責任感、利他的対応など)とアイデンティティを獲得する過程とそれに及ぼす因子を明らかにすることを目的とする。臨床実習で学ぶ医学生と研修医を対象とした研究により、1)医学生から医師としてのアイデンティティへの変化と社会性獲得の実態、2)患者との関わりやロールモデルに対する振り返りの指導(役割への注目、関係構築への支援等)を受ける介入群と対象群間の解析によって、アイデンティティへと社会性獲得に対する教育効果を明らかにし、3)学習者個人、経験、支援とその相互作用の観点から医師育成の教育プログラムの改善点を検討する。 平成27年6月にCruessら学術雑誌Academic Medicineに医師のアイデンティティに関する論文を発表し、アイデンティティ獲得過程のモデルとしてKeganの提唱する発達ステージの有用性が示された。アイデンティの自己評価を行うアンケートの作成と実施・解析を行うにあたり、研究協力者のSnell氏と検討した結果、Keganのステージ分類を自己評価するアンケートを開発し、その評価の妥当性を検証した上で、医学生と研修医の追跡を行うことが望ましいと結論した。 ステージ分類と診療での行動の特性に基づき、因子として自己と他者との関係性、価値観、役割、感情のコントロール、自己意識、振り返り、並びにステージの意向を示す項目を抽出し、医師のアイデンティティ獲得の調査表として30項目を初期トライアルとして使用することとした。これに対象者の背景、診療の参加の程度に関する質問を加えた初回利用アンケートを作成し、平成28年度に研究計画の倫理審査に申請する準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度研究開始直後に医師のアイデンティティ獲得に関する知見が発表され、本研究の目的を達成するためには、当初予定していた自己評価に人の成長のステージ分類を加えた研究の遂行が望ましいと考えた。 ステージ分類はインタビュー等の質的評価を基盤に行われており、調査用紙による集団の評価方法はまだ発表されていない。また人の成長は一方向への変化ではなく螺旋形の過程として説明されているため、総合点による量的判定が困難と考えられた。一方で本研究が目指す対象集団及び個人の経時的変化の解析には定量的評価が有用であるため、評価表の開発にあたり、各ステージの特性の理解のもとに各ステージの評価を行うことを検討した。これらのデータ収集と評価表の作成に時間を要することとなり、当初の予定よりも対象者の自己評価アンケートの開始が遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
研究の学内承認を得たのちに、対象者のアンケート調査を行い、各学習段階における社会性とアイデンティティの変化を解析する。さらに臨床実習開始時期に合わせて介入研究を実施する。 1.アイデンティの自己評価表の検証 新たに開発した評価表によるアイデンティティ評価の妥当性を検証するために、倫理審査での承認が得られ次第、医学科6年次学生を対象とした無記名アンケートを行い、ステージ評価の信頼性検討と質問項目の修正、削除を含む調整を行う。同時に回答する診療への参加度との関連から評価表の妥当性を検討し、以後の調査に用いる評価表を完成する。 2.アイデンティの現状調査 臨床実習と臨床研修の実施時期に合わせて、臨床実習開始直前の医学科4年次学生、臨床実習終了後6年次学生、臨床研修修了時の研修医の調査を実施する。各学習段階での医師としての社会性や価値観(自己と他者との関係性)を含むアイデンティティ獲得の実態を明らかにする。 3.介入研究の開始 2の臨床実習前の学生調査時に介入研究への参加に同意した対象者の調査結果に基づく群分けを行う。1)介入群:患者との関わり、患者診療への貢献、気づき、学びを含めた振り返りの記載を指示し、振り返りを促すフィードバックを行う。2)対照群:臨床経験と振り返りの記載のみを指示する。介入群へのフィードバックは3ヶ月毎、あるいは経験が報告された時に実施する。振り返り回数、振り返りのレベル(自己評価や学習を促す振り返りか)、内容、フィードバックの内容を記録し、観察期間終了時の解析に用いるデータとする。 医学生、研修医のアイデンティティと社会性の実態と経験、振り返り、教育的介入の成果に基づいて、臨床実習、臨床研修の評価とアイデンティティと社会性の獲得を促すための改善のための方策を討議し、提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
アンケート実施のための情報収集と評価表の開発に当初予定よりも時間がかかったため、データ収集の開始が平成28年度となった。データ収集、整理を行う補助者雇用の開始時期を遅らせ、アンケートのための消耗品等の支出が減ったために当初予定よりも研究費使用が減額した。これらの減額分を28年度の業務として支出する必要があるため、次年度使用予定とした。
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次年度使用額の使用計画 |
アンケート用の物品費、平成28年度の人件費追加分に主に支出し、平成28年度に増加した業務を遂行するために使用する。
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