本研究は医師に求められる社会性(患者・社会に対する責任感、利他的対応など)とアイデンティティを医学生、研修医が獲得する過程とそれに及ぼす因子を明らかにすることを目的とし、まず自記式アンケートによる「医師としての成長」を評価するための評価表の開発を行った。医学生、研修医、指導医を対象とした調査により、医学生から医師へのアイデンティティへの変化と社会性獲得の実態とアイデンティティの獲得に影響する因子を解析した。 2016年から2018年に鹿児島大学医学科4年123名、6年127名、研修医49名、指導医37名からアンケートの回答を得て、有効な回答であった322名(回収率53.7%)を解析対象とした。医師としての成長を評価するdeveloping scale、発達の各段階の資質を評価する4つのstage-specific attribute scaleを開発した。これらの尺度の得点は、学生よりも研修医、さらに指導医が有意に高く、多くの医学科学生はKeganのステージ3、指導医はステージ4あるいはそれ以上であることが示唆された。 学習・研修段階によって医師としての成長に差があることが明らかになったが、性別、同一グループ内の年齢は有意な因子ではなかった。また、臨床実習・臨床研修中の主治医としての自覚、患者、指導医、医療職から主治医として認められた自覚は、developing scaleのスコアに影響することが明らかになった。 本研究で開発した尺度により、従来、質的研究によってのみ評価が可能であったプロフェッショナルとしての成長を量的に評価することが可能になり、今後個人、グループ、教育プログラムの評価に有用な情報を提供する可能性が示唆された。
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