研究課題
MemantineはNMDA受容体を阻害し、AD患者脳における細胞内への過剰なカルシウム流入を抑制することによる神経細胞保護効果が有効であることが報告されてきたが、memantineによるNMDA受容体阻害作用は少なくとも10μMの脳内濃度が必須であり、AD患者へ投与されている薬剤濃度5mg/kgではNMDA受容体を阻害する有効域には到達できない。申請者は、memantineの新しい作用機序としてKATPチャネル阻害作用を見出し、KATPチャネルのアイソフォーム(Kir6.1およびKir6.2チャネル)の中で、Kir6.2チャネルの阻害作用が認知機能の改善に重要であることを見出した(Moriguchi et al., Mol. Psychiatry 2016)。申請者が見出したKATPチャネル阻害作用では、KATPチャネル阻害作用により神経細胞膜の閾値上昇を惹起し、L型Ca2+チャネルを介して細胞内のCa2+濃度を上昇させ、記憶学習に必須の分子であるCaMキナーゼIIを賦活化することにより記憶学習を改善する。MemantineによるKATPチャネル阻害作用は脳内において100pMより惹起され、AD患者へ投与されている薬剤濃度5mg/kgでも十分な有効域を持つ。一方、memantine はKir6.2チャネル阻害作用と同時に、Kir6.1チャネル阻害作用を介してうつ症状を改善することも見出した(Moriguchi et al., Mol. Psychiatry 2016)。このように、KATPチャネル阻害作用は、AD治療の中核症状(記憶障害)および周辺症状(うつ症状)を改善する。また、申請者は、KATPチャネル欠損マウスを用いた解析により興味深い研究結果を見出した。Kir6.2欠損マウスではADの中核症状である認知機能障害を見出し、一方、Kir6.1欠損マウスではADの周辺症状であるうつ症状を確認した。さらに、MemantineはKATPチャネル欠損マウスの中核・周辺症状において治療効果を示さず、KATPチャネル欠損マウスにおいてもmemantineの作用部位を同定している。
1: 当初の計画以上に進展している
申請者は、memantineの有するアダマンタン骨格に注目し、東北大学大学院薬学研究科の岩渕好治教授との共同研究により約80種類のアダマンタン誘導体を合成し、memantineのKATPチャネル阻害作用より強力な薬効を有する数種類の新規アダマンタン誘導体を見出し、既に2つのPCT出願を完了している。KATPチャネル阻害作用は、アルツハイマー病の中核症状(認知機能障害)だけでなく、周辺症状(うつ症状)を改善する画期的な治療薬の創成が期待される。
上述の通り、申請者は東北大学大学院薬学研究科の岩渕好治教授との共同研究により約80種類のアダマンタン誘導体を合成し、memantineのKATPチャネル阻害作用より強力な薬効を有する数種類の新規アダマンタン誘導体を見出し、既に2つのPCT出願を完了している。今後、これらの知財を用いた有益なKATPチャネル阻害作用を有するアルツハイマー病治療薬の創成に尽力する。また、申請者はKATPチャネル(kir6.1およびKir6.2)の遺伝子欠損マウスにおいて、アルツハイマー病の中核症状(認知機能障害)をKir6.2欠損マウスにおいて見出し、周辺症状(うつ症状)をKir6.1欠損マウスにおいて見出している。今後、KATP欠損マウスの表現型解析により、KATPチャネルの病態生理学的役割について解析する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 2件)
Mol. Psychiatry
巻: ー ページ: ー
doi: 10.1038/mp.2016.187.
CNS Neurosci. Ther.
巻: 22 ページ: 845-853
doi: 10.1111/cns.12582.