研究課題/領域番号 |
15K08584
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
有吉 範高 千葉大学, 医学部附属病院, 准教授 (00243957)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ファーマコゲノミクス / TKI stop試験 / 第二世代 / 薬物応答性 / トランスポーター |
研究実績の概要 |
慢性期の慢性骨髄性白血病(CML)に対し現在1stラインで使用が認められている第二世代のBcr-Ablチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)のうち、ダサチニブおよびニロチニブで分子遺伝学的完全寛解(CMR)を達成し、その状態を一定期間維持できた患者ではBcr-Abl TKIを中止できるか否かの臨床試験が開始されている。本研究ではTKIを中止後、長期間再発しない患者や逆に短期で再発してしまう患者が如何なる背景を有するのかを知るために患者要因とTKI応答性との関連性を明らかにすることを主目的としている。 初年度の平成27年度は、研究用検体の収集、Vaults多型と発現量および第二世代TKIの効果との関連性、ならびにBIMやトランスポーターの多型や発現量と第二世代TKIに対する応答性との関連性を検討することを目標とした。研究用検体の収集ではTKI血中濃度測定受託の暫定的中断で計画より遅れている。Vaultsの主成分MVP(Major Vault Protein)の多型探索については予定のSSCP解析ではなくシークエンス解析で検討した。トランスポーター発現量や多型と応答性との関連解析に関しては、患者血液検体からのmRNAの抽出条件を確立しmRNA量と応答性との関連性を検討した。 TKI有効性の指標を分子遺伝学的効果(MMR)達成の有無とした時、ダサチニブ投与でMMR非達成の患者では白血球中のABCG2の発現量が中央値で5倍高かった。それに対しABCB1では多型や発現量とダサチニブの有効性には関連性が認められなかった。ニロチニブの有効性に関してはこれらの多型や発現量との関連性を認めなかった。ダサチニブでは維持投与量が有効性と関連する傾向を認めたため、副作用による減量や投与中断は問題となるがABCB1多型がダサチニブによる血小板減少の発現および発現時期と有意に関連していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
7月に所属部署の全面移転があり、分析機器移設に伴う質量分析器の再調整のため、患者のTKI血中濃度測定の受付(検体収集)を一時中断した。さらに病院の方針で病棟薬剤業務実施加算算定の準備を最優先で行うこととなり、業務の一環として行っていた研究の中で、第二世代のBcr-Abl TKIの血中濃度測定など診療報酬が付かない測定は部内において保留となり、診療報酬が算定できる業務へのシフトが必要となった。また、本研究の遂行に必須だが、いずれも耐容年数を超えている機器(サーマルサイクラー1台、SSCP解析装置、DNAシークエンサー、リアルタイムPCR装置)が相次いで故障したため、故障中はそれらを用いる研究の進行が滞った。これら機器の故障に伴い、当初予算では質量分析器のターボ分子ポンプの交換費用を計上していたが、DNAシークエンサーおよびリアルタイムPCR装置の修理(キャリブレーションとして支出)に充当させていただいた。 一方、それらを除けば概ね順調に進捗していると考えている。初年度の実績概要に記載したように、修理した機器での既存の検体を用いた解析によって、一部のトランスポーターは第二世代TKI、特にダサチニブの有効性や忍容性と関連性がある可能性が考えられる。Bcr-Abl TKIの場合、治療の中断は効果に著しい影響を及ぼすことから、治療を中断することなく早期にMMR、さらにはより深いCMRに到達することによってTKIを中止できる患者か否かに関しては、これらトランスポーターの多型や血球細胞における発現量によって一部規定されている可能性が考えられる。他方、TKI中止後、早期に再発する患者か否かに関しては、もはやTKIの投与が継続されていないことから、おそらく全く別の因子が規定要因として関与していることが推測される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策としては、まず平成28年度の研究実施内容として当初より計画していた第三世代のBcr-Abl TKIであるポナチニブの血中濃度測定法を優先的に確立する。ポナチニブは、昨年初頭にすでに国内製造承認申請がなされている。米国で問題となり一時流通停止にまでなった血栓塞栓症リスクのためか、審査にやや時間がかかっているようであるがT315I変異に基づく第一、第二世代TKIの治療不成功例に対する切り札の薬剤であるため、本年度前半にも国内承認される可能性がある。承認後は、第一、第二世代でfailureとなった患者の一部に使用されるほか、第一、第二世代のTKIでCMRに到達し、投与中止後に再発した患者、すなわち本研究の主要な対象集団の一部にも使用される可能性が考えられるため、本研究の副目的である再発した患者における適切な治療の検討にはポナチニブの血中濃度測定法は必要不可欠となる。また初年度に引き続いて既存検体の解析を推し進め、患者要因とTKI応答性との関連性をさらに明らかにする。 研究遂行上の課題については、現状新たな患者検体の収集再開の目処が立っていない点であり、状況が好転しない場合は、既存検体での解析のみで結果を出すことになる可能性がある。多型や発現量とTKI応答性の解析に関しては、ほぼ全例で解析が行えるため統計学的な解析が可能であるが、CMRを達成しTKI投与中止の臨床研究の参加に協力が得られる患者数は限られると予想される。その点について当初考えていた対応策は、他施設の協力を得ることであった。実際、県内の他医療機関よりTKI血中濃度測定に対する要望がある。しかしながらTKI血中濃度測定を受託することができない現状下では、他施設が享受できるメリットがないため協力を得るのは事実上困難と考えられる。
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