前年度までに、我々は、乳癌患者由来ゼノグラフト(PDX)由来の細胞を3D培養し、脂肪幹細胞との共培養がスフェア形成を促進すること、腫瘍形成性の促進には脂肪幹細胞由来のadipsinが寄与していることを報告した。今年度は、さらに、adipsion阻害薬により、脂肪幹細胞によるin vivo、in vitro(3D)腫瘍形成性の促進が解除されることを示し、治療学的意義を確認した。 以前我々は、殺細胞型化学療法薬の殺細胞効果は、従来の2D培養下で3D培養下に比べて高い傾向にあることを報告した。一方、PIK3CA活性化変異が抗HER2抗体であるトラスツズマブの耐性機構となりうることが、我々を含む複数のグループから報告があり、臨床的にもそれを支持するデータが蓄積しつつある。これらを背景に、我々は、PIK3CAの遺伝子型の異なるHER2過剰発現乳癌細胞株を用いて、抗HER2抗体トラスツズマブの効果を、よりin vivo環境に近いと信じられる3D培養下に評価し、2D培養下での結果と比較した。その結果、PIK3CA野生型細胞を3D培養したときのみ、トラスツズマブ単剤にて細胞死が確認され、生体内で観察される腫瘍縮小を反映していることが示唆された。すなわち、トラスツズマブの効果は3D培養下で2D培養下より高いことになり、殺細胞型化学療法薬でみられた傾向と逆であった。3D培養下には、接着因子等からのシグナルが2D培養下よりも弱いため、細胞がHER2に強く依存することが要因として示唆され、PIK3CA遺伝子型のトラスツズマブ感受性に及ぼす影響も強くなると推測された。この所見の治療学的意義をさらに深めるため、PIK3CA変異による抗HER2剤への耐性を、PI3K経路阻害薬で克服できるかを検討した。その結果、PIK3CA変異型細胞株でのみ、PI3K経路阻害薬の上乗せ効果が観察された。
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