研究課題
がんの骨転移は、疼痛や病的骨折による歩行不能を招き、患者の生活の質を著しく低下させる。近年、分子標的薬等により余命が延長し、長期間の骨転移治療を受けるがん患者が増加した。ビスホスホネート製剤であるゾレドロン酸は、破骨細胞の細胞死を誘導し、骨折リスクを30~50%低下させる。ところが、重大な副作用である腎障害の発現率は10~20%と高く、積極的ながん治療をも妨げる。一方、抗RANKL抗体であるデノスマブは、新規骨転移治療薬として期待されるが、重篤な低Ca血症による死亡例も報告されており腎機能低下患者で発現しやすい。また、ゾレドロン酸およびデノスマブは共に顎骨壊死を惹起することが知られており、臨床における重大な副作用となっている。骨転移治療薬による副作用の対策法開発のため、ゾレドロン酸による腎障害、ゾレドロン酸またはデノスマブによる顎骨壊死の要因解析に取り組んだ。レトロスペクティブ観察研究の結果、ゾレドロン酸投与患者における腎障害の有意な危険因子として、糖尿病、シスプラチン併用、投与開始前の腎機能低下が関連している可能性が示唆された。骨転移治療薬投与患者における顎骨壊死では、高齢、デノスマブの投与、血管新生阻害薬の投与が有意な危険因子であることが示唆された。RANKLに対するモノクローナル抗体であるデノスマブは、ゾレドロン酸より強力に骨転移に伴うイベントの発生を抑制することが知られているが、本研究ではそれを支持する結果が得られた。一方、デノスマブ投与患者における顎骨壊死は、ゾレドロン酸投与患者における顎骨壊死に比べ、回復する割合が有意に高いことも示され、骨アパタイトに長期吸着するゾレドロン酸に比べデノスマブの毒性は比較的短期に留まる可能性も示唆された。一連の結果は、より安全な骨転移治療に寄与すると期待される。
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Pharmazie
巻: 73 ページ: 304-308
10.1691/ph.2018.7948