近年、体内時計の障害は生活習慣病をもたらすことが明らかになってきたが、交替勤務や夜勤のために体内時計の乱れが止むを得ない人々に対する方策は未だない。そこで本研究では、中枢時計が乱れたままでも制御が可能な末梢時計に着目し、末梢時計が特異的に障害された動物モデルにおける糖・脂質代謝の変化を、全身性および中枢時計特異的体内時計障害モデルと比較した。さらに、末梢時計障害モデルにおいて末梢時計制御薬の代謝改善効果を確認することにより、末梢時計障害の病態生理学的意義を解明し、同時にその治療法を開発することを目標とした。 まず、照明条件を変更した全身性体内時計障害モデルを確立した。マウスを3時間明期:3時間暗期の照明条件下で飼育すると、12時間明期:12時間暗期のままで飼育した対照群と比べ、若齢期には一過性の体重増加を認めた一方、成体期には体重への影響を認めなかった。また、体重増加の有無にかかわらず、耐糖能への悪影響を認めた。これらの影響は高脂肪食負荷時にはより顕著であった。さらに、肝臓特異的時計遺伝子欠損マウスでは耐糖能への影響は認められなかった。以上より、本モデルは末梢(脂肪細胞・肝)体内時計障害の病態生理を解析するのに適したモデルであることが判明した。 次に、末梢時計特異的障害モデルの作製を試みた。マウスを12時間明期:12時間暗期、4時間給餌:16時間絶食の周期で飼育し、4か月間観察したところ、自由摂餌をさせた対照群と比べ、体重や血糖値には明らかな影響を認めなかった。一方、摂餌量は有意に少なく、エネルギー代謝が低下している可能性が判明した。 本研究の成果はエネルギー代謝におよぼす末梢体内時計の重要性を示唆しており、将来的に生活習慣病の予防法開発につながることが期待される。
|