ラット心房に電気刺激を与えることで実験的に心房細動を誘発することが可能であり、当研究室では心房細動持続時間が慢性容量負荷モデルである動静脈瘻ラットで顕著に延長することを既に見出している。本研究では、このモデル動物を利用して心房細動促進因子の検索を行い、以下の知見を得た。 ①アルドステロンは心房細動の誘発促進因子として作用し、慢性容量負荷存在下でこの作用が強力に発揮されることを見出した。コントロールの動静脈瘻ラットでは心房期外収縮の自然発生が殆ど認められなかったのに対し、アルドステロンを持続投与した動静脈瘻ラットでは高頻度に観察された。アルドステロンは心臓の形態学的指標や心房内伝導時間や心房有効不応期といった電気生理学的指標に有意な変化を及ぼさなかったことより、不整脈の発生維持に重要とされている組織学的ならびに電気的リモデリングと異なる機序がアルドステロンに存在する可能性が想定された。 ②アルドステロン負荷・動静脈瘻ラットで誘発される心房細動は、transient receptor potential canonical 3 (TRPC3) チャネル阻害作用を有するpyrazole-3により有意に抑制された。TRPC3チャネルは、膜電位依存性の乏しいCa2+透過性イオンチャネル1つであり、心血管系に関与した細胞内シグナル伝達に関与することが知られているが、慢性容量負荷とアルドステロン負荷による心房細動の発生基盤構築においてもTRPC3チャネルが関わる可能性が明らかとなった。
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