研究課題/領域番号 |
15K08601
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
辻本 雅之 京都薬科大学, 薬学部, 講師 (90372739)
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研究分担者 |
峯垣 哲也 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (10549306)
西口 工司 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (80379437)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 末期腎不全 / 有機アニオン輸送ポリペプチド / 尿毒症物質 / SN-38 |
研究実績の概要 |
維持透析患者を含む慢性腎臓病患者において、様々な薬剤による重篤な有害事象が報告されている。この原因として、薬物の腎排泄能低下に伴う血中濃度上昇だけでなく、肝臓をはじめとする腎臓以外からの排泄能の低下を軽視していることや、他剤との併用により予測不能な排泄低下が生じているためと考えられる。本研究の目的は、慢性腎臓病患者における重篤な有害事象のリスク増大について、特に、尿毒症物質も関与する薬物相互作用に着目して、有害事象の重篤化の原因を明らかにすることである。 本検討では、維持透析施行中の慢性腎臓病患者において認められる抗がん剤の活性代謝物であるSN-38の血中濃度が顕著に増大するメカニズムを明らかにした。すなわち、重度の慢性腎臓病患者ではSN-38の肝消失に重要な役割を果たしている肝取り込みトランスポーターであるOATP1B1が機能低下していること、その機能低下に腎不全患者特有の尿毒症物質だけでなく、健常者にも一般的に存在している血清成分が協同的に関与していることを明らかにした(Y.Katsube, M.Tsujimoto et al., Cancer Chemother Pharmacol,79, 783-789 (2017))。 また、いくつかの経口抗がん剤が、OATP1B1を介した基質薬物の取り込みを有意に阻害すること、基質と阻害剤の組合せによっては活性化する場合もあることを明らかにした。これらの事実は、OATP1B1の基質認識部位や阻害剤が影響する部位が複数存在することを示唆しており、末期腎不全患者血清も含めたOATP1B1が関与する薬物相互作用が多様であることを意味している。以上のことから、腎機能が廃絶した患者におけるOATP1B1を介した薬物相互作用メカニズムを明らかにするためには、OATP1B1の分子機構に着目した更なる検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の一部が、Cancer Chemother Pharmacol に受理されたため、研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本検討をすすめているうちに、慢性腎不全患者における有害事象の重篤化には、薬物輸送担体である有機アニオン輸送ポリペプチド(OATP)が重要であることが明らかになった。しかしながら、OATPは様々な薬物を基質・阻害剤とすることが知られており、我々の検討によっても明らかになったように、その阻害プロファイルが選択する基質によって異なることも明らかにされつつある。すなわち、このOATPを介した薬物輸送には、複数の基質認識部位や阻害剤認識部位が存在することを意味している。よって、本研究結果を成就するためには、この分子機構を明らかにする必要がある。今後は、その点についても検討を進めたい。 また我々の予備検討により、慢性腎臓病患者における重要な因子の一つであるインドキシル硫酸の蓄積が、患者ごとに大きく異なることが明らかになった。インドキシル硫酸は、腎臓以外の組織において、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの機能に影響するため、その蓄積の個人差は、薬物相互作用の有無に大きな影響を及ぼすと考えられる。よって、今後、臨床現場と協力し、その蓄積の個人差を明らかにする検討も進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予算は概ね予定通り執行したものの、まとめ買いなど効率の良い購入方法を選択したなどの理由により、5,450円という残額が出た。
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次年度使用額の使用計画 |
わずかな繰越であるため、基本的に一般的な消耗品の購入に充てる予定である。
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