研究課題/領域番号 |
15K08603
|
研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
北中 純一 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (10278830)
|
研究分担者 |
北中 順惠 兵庫医科大学, 医学部, 講師 (30340954)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 覚せい剤 / 中枢ヒスタミン神経系 / ヒスタミンH3受容体逆作動薬 / ピトリサント / ヒスタミンNメチル基転移酵素 / 視床下部 / 過運動 / 循環系作用 |
研究実績の概要 |
覚せい剤の急性高用量投与は、速やかな異常行動の発現を引き起こす。実験的にマウスに高用量の覚せい剤(3-10 mg/kg)を腹腔内急性投与すると、過運動(hyperlocomotion)~常同行動(stereotypy)が発現することが観察される。ポリアミン類の前駆物質であるagmatine(=脱炭酸アルギニン)の前投与はその覚せい剤作用を抑制することを見出しており、H28年度は前年に引き続きagmatineと構造類似体を中心に化合物の中枢移行性を検討するためICR系雄性マウスを用い、腹腔内投与して視床下部におけるヒスタミン代謝をHPLC-蛍光検出法で定量評価した。その結果、agmatine以外の化合物での有意な視床下部ヒスタミン含量増加は確認されなかった。そこで、「ヒスタミン神経系活性化による覚せい剤作用の抑制効果」仮説に基づき、ヒスタミンH3受容体逆作動薬に着目し、その神経終末でのヒスタミン含量増加作用を指標に、本研究課題に合致する程度の脳内ヒスタミン神経系活性化効果を持つ化合物の探索を並行して行った。その結果、ピペリジン誘導体のひとつBF2.649(一般名pitolisant)が脳ヒスタミン神経系を活性化する薬物であることを確認した。中枢ヒスタミン神経系に作用して覚せい剤作用を改善する薬物を開発するリード化合物になり得ることを行動薬理学的に示した。また、H27年度に予備試験を行った、agmatineとヒスタミンH3受容体拮抗薬との併用による覚せい剤作用への抑制効果には、pitolisantは相加的な効果を示した。この点についてさらに詳細な検討を継続する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
pitolisant投与が脳内でヒスタミン組織含量を増加させることが明らかとなった。視床下部でのヒスタミン増加は、覚せい剤が誘発する異常行動を抑制する方向に働くことを我々は明らかにしており、pitolisantがヒトにおいても覚せい剤による異常行動に治療的効果を示す可能性が考えられた。Pitolisantの覚せい剤異常行動抑制効果の証明とその分子機構を行動薬理学的に示すため、観察主体の常同行動を指標とせず、マウスを用いた過運動を評価することし、その行動を自動計測してデータ集積した。その結果、①pitolisantは単独投与で自発運動に影響しなかった。②覚せい剤(3 mg/kg)誘発過運動を、pitolisantは用量依存的に抑制した。③pitolisant抑制効果は、ヒスタミンH1受容体拮抗薬で完全に抑制され、H2受容体拮抗薬で部分的に抑制された。すなわち、覚せい剤による過運動がH1受容体拮抗薬では完全に「復活」した。③ヒスタミンH3受容体作動薬と同時投与すると、pitolisantの覚せい剤抑制効果はさらに強められて、約半数のマウスにおいて常同行動の発現が観察された。自動計測の運動量はそれを反映しており、覚せい剤投与後一過性に強い過運動が認められたのち、速やかに運動量が減少し、常同行動のパターンを呈した。一方⑤H28年度科研費にて設置のげっ歯類血圧測定装置を用いて、metoprine(ヒスタミンNメチル基転移酵素阻害薬)投与によるマウス血圧には変化は認められず、また非動物式攻撃性検定装置を用いた実験により、攻撃性発現も認められなかった。この研究について、pitolisantの場合も引き続き検討する。
|
今後の研究の推進方策 |
新規HMT阻害薬の探索としてagmatineの活性を超えるものの発見に至っていない一方、ピペリジン誘導体が有望であることが発見された。特にpitolisantはその作用が、「中枢移行→ヒスタミンの脳内遊離→H1受容体結合(部分的にはH2?)→覚せい剤異常行動の抑制」であることが強く示唆された。その分子機構はHMT阻害薬と重なる部分が多く、最終年度は、「HMT阻害薬とヒスタミンH3受容体逆作動薬との併用」による効果的な覚せい剤依存治療の達成を目標に、動物実験を継続する。」副作用の発現についてはさらにデータを取得するべく、血圧の併用療法による変動や攻撃性、記憶障害の有無、うつや不安を中心に検討し、課題をまとめ上げる。行動観察は、当該研究室に配属予定の医学部学生諸氏のご協力を仰ぎ、観察実験をより客観性が高いものとして引き続き実施する。覚せい剤以外の依存薬物に対する治療効果の応用・展開について、モルヒネ誘発過運動に対する効果と鎮痛効果への影響の際を中心に現在進めている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
agmatine関連化合物のスクリーニングからピペリジン誘導体のヒスタミンH3受容体逆作動薬への展開に、想定以上の時間がかかったことが原因と考えられる。
|
次年度使用額の使用計画 |
H29年度実施予定研究の進捗状況を鑑み、最終年度としてHMT阻害薬とヒスタミンH3受容体逆作動薬併用の覚せい剤作用抑制効果証明を実施することを視野に入れており、その計画中で適切に使用する。
|