研究課題/領域番号 |
15K08607
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武田 晴治 北海道大学, 保健科学研究院, 准教授 (80374726)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 低比重リポ蛋白質 / 硬さ / 酵素 / 年齢 |
研究実績の概要 |
昨年度、LDLの表面に存在するリポ蛋白質を、V8プロテアーゼやαキモトリプシンで切断しても硬さの変化が観察されなかったことを報告した。そこで本年度は脂質を切断するフォスフォリパーゼA2(PLA2)で処理することによりLDLの硬さが変化するかについて、原子間力顕微鏡のフォースカーブ測定を用いて調べた。その結果、PLA2で処理することにより硬さが柔らかくなる傾向があることが判明した。脂質の構造が硬さと関係があり、酸化によりLDLの硬さが柔らかくなる原因として、過酸化脂質の生成と切断による脂質構造の変化などが関与している可能性が示唆された。 次に脂質構造の乱れがLDLの脂質および内部の流動性を変化させていると考えた。そこで示差熱型カロリメトリー(DSC)を用いて、LDLを酸化、V8プロテアーゼ、PLA2で処理したときに流動性の変化を示すピークの温度と処理前のピーク温度の変化(28℃~31℃)の差を測定した。その結果、酸化した場合の温度の変化は±0.5℃の微増または微減、V8プロテアーゼで処理した場合の温度の変化は約0.5℃の微減、PLA2処理した場合の温度の変化は約1℃の程度の増加が観察された。酸化した場合、リポ蛋白質は酸化により切断されると同時に脂質も酸化することで構造の変化が起こることが予想された。リポ蛋白質の切断によるピークの低温側へのシフトと脂質構造の乱れによる高温側へのシフトが相殺され微増または微減になったと考えられる。酵素によりピークがシフトした理由およびLDLの硬さの変化とピークシフトの結果の相関については検討中であるが、脂質の構成の変化やリポ蛋白質と脂質コア部分との相互作用の変化などが関与していると考えている。 40歳台の方の血清からLDLを分画して硬さを検討した結果、20歳台の方のLDLより硬くなる傾向が観察された。詳細については次年度検討予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画ではH28年度までにリポ蛋白質の硬さが酸化により変化する理由を明らかして、40歳台の健常者のLDLの硬さを評価して60歳台のLDLの硬さについても予備的な結果を得ることであった。本年度の研究によりリポ蛋白質の硬さの変化は脂質を分解する酵素により脂質構造の変化により引き起こされることを示唆する結果が得られた。酸化によるLDLの硬さの変化も同様に脂質の構造変化による可能性があることが判明したが更なる研究が必要である。 また、H28年度は、40歳台のLDLの硬さについての結果までしか得られていないため、やや遅れていると考えている。60歳台で採血に協力したいただけるボランティがいなかったことと、装置の不具合などが影響したことが原因の一つと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
40歳台、60歳台で採血に協力していただけるボランティアを効率的に得るために、募集する範囲を他の部局など広げる予定である。本年度得られたデータにさらに追加するために40歳台でプラス5人、60歳台で10人のLDLの硬さについて測定して分布を測定する予定である。 最終的に20歳台、40歳台、60歳台の血清から分画したLDLの硬さの分布に有意差があるかどうかを評価して公表する予定である。 また、LDLの硬さが変化する要因についてより詳細に検討する。具体的には脂質の切断部位が異なるPLAを用いてLDLの硬さの分布を評価して、さらに同試料をDSCによる脂質の流動性変化、さらに温度による影響、粒子径の分布など他の要素なども測定して、脂質の構造変化と硬さの変化について相関を調べて学会などで公表、議論して専門誌に投稿するなど結果を公開していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置の不具合と60歳台の方から血清を提供していただける方が少なかったことにより、測定に使用予定であった遠沈管および原子間力顕微鏡の探針の購入が減ったことが原因である。
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次年度使用額の使用計画 |
所属学部内で60歳台の方で採血に協力していただける方をリクルートしていたが、他学部、関連企業への協力を呼びかけるなど広い組織で募集することにより安定した試料の確保をする予定である。また、装置も安定したため、前年度より効率よく研究が進む予定である。
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