低比重リポタンパク質(LDL)は、酸化を受けることにより動脈硬化や血栓形成を促進する。原子間力顕微鏡(AFM)でLDLの酸化や酵素処理による物性変化について検討を行っている。フォースカーブ測定により、LDLの硬さが酸化により柔らかくなることを報告しているがメカニズムについてはわかっていない。昨年度まで、LDLをプロテアーゼおよびフォスフォリパーゼA2 (PLA2)で処理したときにLDLの硬さの影響を調べており、PLA2で処理した場合、硬さが柔らかくなることを報告した。LDLには酸化した脂質を切断するLp-PLA2が含まれていた。LDLを酸化するとLp-PLA2が酸化脂質を切りだし、そのことが酸化によるLDLの硬さ変化に関与していると予想した。そこで、酸化するときに複数のLp-PLA2の阻害剤を添加したが、LDLの硬さの回復は観察されなかった。酸化やPLA2での処理後にLDL粒子の大きさを動的光散乱法で測定したが、未処理のLDLと比較して粒子径の有意差はなく、むしろ大きくなる傾向が観察された。また、酸化やPLA2処理により脂質分解物や脂肪酸がLDL粒子から遊離していることも判明した。これらの結果よりLDLの硬さの変化は脂質分解物や脂肪酸脂質が脱離して構造が変化したにも関わらず粒子径は変化していないことで密度が減少することによりLDLの硬さが柔らかくなっている可能性があることが判明した。 加齢により硬さの分布に影響があるかどうかについて年齢別に3群に分けて検討した。 22歳から37歳のLDLの硬さの分布を測定して、その中央値の平均を求めたところ1±0.03 MPaであった。 同様に38歳から54歳および55歳から73歳のLDLの硬さの平均値はそれぞれ1.4±0.4 MPaと1.7±0.2 MPaとなった。加齢とともに硬さは増加する傾向が観察された。
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