研究課題
本研究においては申請時及び平成27年度研究実施報告書において述べた通り、平成28年度においては、免疫複合体より測定対象系である抗原(ペプチド・たんぱく質)を分離し測定する方法の検討を継続して行った。申請時には低濃度のSDSと加熱により抗体を変性させ、その後、限外ろ過で高分子量の抗体を除去できる可能性を示した。繰り返し実験を行うと、除去できることが多い物の、無視できない回数で除去に失敗し、再現性が悪いことが判明した。抗体を固相化する方法に切り替えることで再現性および除去効率の改善に取り組んだが、改善は乏しかった。数々の方法にチャレンジした結果、結局もっとも再現性良く除去が見込める方法は、輸血検査で用いられている方法にヒントを得た、酸で免疫複合体を処理した上で限外ろ過を行う方法であった。この方法では再現良く免疫複合体より測定対象である抗原(ペプチド・たんぱく質)を分離する事が可能であった。100%純粋な抗原が得られなくとも、精密測量を観測するという質量分析計の特性から、この程度の粗精製物でも質量分析で解析対象にすることは可能と考え、MALDI-MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法による質量分析)を用いて粗精製物の解析を試みた。一方、免疫複合体よりの精製物を質量分析の対象とするだけでは無く、より広く腫瘍分泌物、肝疾患マーカー、ビタミンD代謝物について質量分析研究を行った。さらには神経難病(平山病)のマーカー探索にも貢献した。
2: おおむね順調に進展している
H27年度半ばに、申請時の申請書に記した研究協力者のS.T.Nが出産のため産休を取得したため進捗状況のペースが落ちたことは否めない。その後、S.T.Nの産休が終了し現在、研究に復帰はしているが、やはり出産前にフルタイムで研究時間が取れたことに比べれば、進捗の停滞はしばしばでありMALDI-MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法による質量分析)による粗精製物よりの測定対象の解析は再現のある結果を得るに至っていない。一方、申請者らはMALDI-MSのみならず別のタイプの質量分析計(LC-MS/MS)を用いて詳細なぺプチドマッピングを行うことで、肝疾患マーカー(FIC5.9)の生成機序を解明した(Kikuchi et al. Clinical Proteomics 2016 13:27 DOI: 10.1186/s12014-016-9129-6)。つまりLC-MS/MSを用いることでは複雑な溶液から精密質量を含め、高精度に測定対象を解析する事自体は実施可能であった。また、腫瘍分泌物の質量分析解析より新規胃癌マーカーを見出し、ビタミンD代謝物についての質量分析手法の改善研究を行った。さらには神経難病(平山病)のマーカー探索にも貢献し、これらをいずれも査読付き英文誌に発表した。
「現在までの進捗状況」で述べた通り、LC-MS/MSを用いることでは複雑な溶液から精密質量を含め、高精度に測定対象を解析する事自体は可能であった。つまり質量分析部をLC-MS/MSとすることで、予定通り、臨床検査試薬・研究的イムノアッセイの検出系を質量分析器とする「Immuno-MS化」を手掛けていくことは十分に可能であると考えられる。一方、LC-MS/MSは比較的操作の煩雑かつ機器も複雑な質量分析計であり、中でもLC(液体クロマトグラフィー)部を持っているため、Immuno-MSが行えること自体には、あまり新規性が無い。その意味では臨床検査を念頭に置く場合、操作が簡便かつ機器も複雑でないMALDI-MSのほうがLC-MS/MSよりは好ましく、新規性もある。新規性と再現性(実施可能性)のバランスを見出していく事を今後の研究の推進方策としたい。また「現在までの進捗状況」で述べた、今年度に達成したように周辺技術を用いて、広く質量分析による医学の進歩に貢献したい。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件)
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