研究課題/領域番号 |
15K08616
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
野島 順三 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30448071)
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研究分担者 |
家子 正裕 北海道医療大学, 歯学部, 教授 (50250436)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 抗リン脂質抗体症候群 / 抗カルジオリピン抗体 / 抗β2-グリコプロテインⅠ抗体 / ELISA |
研究実績の概要 |
抗リン脂質抗体症候群(APS)は,血中に抗リン脂質抗体が出現し,動・静脈血栓症や習慣流産などの病態を呈する自己免疫性血栓塞栓性疾患である.APSの検査診断には抗リン脂質抗体の検出が必須であり,現在のAPS診断分類基準改定案では,直接定量法としてELISAによる抗カルジオリピン抗体(aCL)および抗β2-グリコプロテインⅠ抗体(aβ2GPI)の測定が採用されている.しかし,抗リン脂質抗体は認識するエピトープの違いにより,いくつかのタイプが存在しており,中でも抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(aPS/PT)は,aCLやaβ2GPIに並んでAPSの臨床病態に関連する重要な抗体である可能性が示唆されている.それゆえ,今後のAPS検査診断には,患者血中に存在する抗リン脂質抗体のタイプの決定と抗体価の定量が極めて重要になると予測される. 現在, aCL・aβ2GPⅠ・aPS/PTのELISAキットが複数社より製造されている.しかし,各社のELISAキット間で単位が統一されていないために,同一検体でもキット毎に測定値が異なる.さらに明瞭な基準値が存在しないために,測定値の評価は難しいという問題がある. 本研究では,日本における抗リン脂質抗体測定の標準化を目的に,SLE 331例(動脈血栓症:脳梗塞50例・心筋梗塞13例・閉塞性動脈硬化症25例、静脈血栓症:深部静脈血栓症59例、習慣流産43例を含む)による後ろ向き検討,および日本抗リン脂質抗体標準化ワークショップに参加する4大学病院共同(APS 63症例・健常人血清400サンプル)による前向き検討にて,1.各市販ELISAキットの健常人基準値の決定,2.各キットにおける測定値の施設間差,3.APSスクリーニング検査としての有用性について検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究実施計画は,①認識エピトープ別ELISAシステムの開発と臨床的有用性の検証,および②日本における抗リン脂質抗体ELISAの標準化であり,認識エピトープ別抗リン脂質抗体ELISAシステムを用いることにより,個々の患者毎に合併症パターンおよび発症リスクをある程度予測出来る可能性を見出した.特に,動脈血栓症の発症には,aβ2GPⅠとaPS/PTが強く関連しており,APS検査診断には欠かせない項目であることを関連学会に報告した.また,市販ELISAキットの標準化に関しては,日本抗リン脂質抗体標準化ワークショップに参加する4大学病院共同による前向き検討にて,測定値に施設間差がないことが確認され,各キットの健常人基準値が決定された.さらに,APSのスクリーニング検査として抗リン脂質抗体を広範囲に測定できるaCL-ELISキットAが有用であることが確認された.これらの結果は,日本血栓止血学会標準化委員会シンポジウムで報告した.
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今後の研究の推進方策 |
APS検査診断ガイドラインの作成 市販のELISAキットや研究・開発中のELISAも含めて,効率よく正確にAPSを鑑別診断できる測定系および検査手順の要件を検討する.また,その結果に基づいて,実際の臨床現場で広く活用できる新しいAPS検査診断ガイドラインを作成する. 各種抗リン脂質抗体の血栓形成作用および細胞傷害の解明 1.代表的なAPS患者血漿からProtein GカラムにてIgG分画をアフィニティー精製した後,各抗体に対応する抗原をリガンドとした抗原カラムクロマトグラフィーを用いて各種抗リン脂質抗体を単離・精製する.2.ヒト動脈血管内皮細胞・単核球・血小板の共培養モデルを作成し,純化・精製した各種抗リン脂質抗体の添加実験を行う.それぞれの条件下における血管内皮細胞の形態変化を画像解析するとともに、培養上清・血管内皮細胞・単核球・血小板をそれぞれ回収し、次の3‐6の実験を行う.3.血管内皮細胞および単核球について、TF・TNF-α・IL-1β・IFN-γ・IL-8・MCP-1・VCAM-1・ICAM-1 ・eNOS・iNOS等のmRNA発現量をリアルタイムRT-PCR法にて、細胞表面TF・接着分子・トール様受容体(TRL)の発現をフローサイトメトリーにて比較検討する.4.培養上清中のTNF-α・IL-1β・IL-6・IFN-γ・IL-8・MCP-1・トロンボキサン(TXA2)・プロスタサイクリン(PGI2)の濃度を各ELISAにて、NO濃度を比色法(Griess法)にて,酸化ストレス度を現す活性酸素代謝産物濃度(ROMs)および抗酸化力価(BAP)を専用キットにて比較検討する.5.血小板膜表面のCD62P(Pセレクチン)の発現をフローサイトメトリーにて定量する.6.各種抗体の作用がどのような細胞間ネットワークおよび細胞内シグナル伝達経路を介して起こるのか,主要な細胞表面分子と細胞内シグナル伝達分子の各種阻害剤や活性化分子を用いて検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね計画通りに予算の執行が出来たが、支出額が交付決定額とぴったり合わず、少額の繰越金が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
物品費として使用する.
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