抗リン脂質抗体症候群(APS)は、リン脂質に関連する自己抗体である抗リン脂質抗体の出現と、それに伴う多彩な合併症(動脈血栓症:脳梗塞・心筋梗塞・閉塞性動脈硬化症、静脈血栓症:深部静脈血栓症・肺塞栓症、習慣流産など)を特徴とする自己免疫性血栓塞栓性疾患である。申請者らは、これまでの研究でAPSの患者血中には多種多様な抗リン脂質抗体が混在し、抗体の組み合わせによりAPS特有の多彩な合併症(動・静脈血栓症や習慣流産等)が生じることを申請者らは先駆的に明らかにしてきた。 本研究では、日本における抗リン脂質抗体測定の標準化を目的に,日本抗リン脂質抗体標準化ワークショップに参加する4大学病院共同による前向き臨床研究にて、各市販ELISキットの健常人基準値を決定した。各キット毎に施設間差を検討した結果、一部に乖離例が認められたものの概ね一致した結果が得られた。更に今回決定した健常人参考値に基づいて抗体の有無を判定した場合、同一の抗体を測定するキットであれば結果はほぼ一致することを確認した。APS検査診断において、抗体価測定の診断的有用性が高いのは抗カルジオリピン抗体IgGであり、MESACUP カルジオリピン IgG キットおよびQUANTA Lite ACA IgG が感度・特異度ともに優れていることを報告した。 一方、APSにおける動脈硬化病変進展機序の解明を目的とした研究では,APS患者では相対的酸化ストレス度の亢進による慢性的な作用と抗リン脂質抗体による直接的な刺激により、病的血栓形成の引き金となる細胞表面組織因子(TF)の発現が促されること、一酸化窒素(NO)合成酵素であるeNOSの発現が低下することを見出した。
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