研究課題/領域番号 |
15K08619
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
奥宮 敏可 熊本大学, 大学院生命科学研究部(生体情報解析学分野), 教授 (50284435)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ライソゾーム病 / ポンペ病 / Ⅱ型糖原病 / 新生児スクリーニング / 遺伝子多型 / 血液濾紙 / 酸性α-グルコシダーゼ / 酸性マルターゼ |
研究実績の概要 |
ポンペ病は、ライソゾームに存在する酸性α-グルコシダーゼの遺伝的欠損に起因した常染色体性劣性遺伝病で、全身にグリコーゲンが蓄積することからⅡ型糖原病としても知られる疾患である。本症に対する根治療法として酵素補充療法が承認された現在では、早期診断・早期治療介入が非常に重要である。申請者は、これまで血液濾紙による新生児マススクリーニング法の開発を中心に研究を行ってきた。その結果、日本人健常新生児の約4%がアジア人固有の遺伝子多型(c.1726G>A; C.2065G>A)を持ち、それが酵素診断に直接影響を与え、この遺伝子多型を両アリールに持つ健常新生児(AAホモ接合体)の一部が患者群の活性値と重なることを明らかにした。さらに、患者群とAAホモ接合体の識別率を改善するためのBa/Zn法を開発し、アジア人を対象としたポンペ病の新生児スクリーニング法を確立した。平成25年より本スクリーニングシステムを用いて、約8万例の新生児をスクリーニングし、現在までに12例の遅発型ポンペ病と思われる症例を同定した。本症の発症頻度は4万~10万人に1人と考えられてきたが、それより約10倍の患者が潜在している可能性が示唆され、しかもその多くが遅発型であることが予想された。この成果は、原因不明の神経・筋疾患患者(成人)の中にポンペ病が含まれていることを強く示唆する結果である。そこで、筋生検材料から病理染色用として作製された筋凍結切片を用いて酵素診断法の確立を試みた。本法を用いて、予備試験として二重盲検法にて8例の非ポンペ病と2例のポンペ病を測定した結果、非ポンペ病(mean±SD)が15.5±4.4nmol/L(レンジ幅9.1~23.2nmol/L)であるのに対し、ポンペ病では0.1および0.6nmol/Lと明瞭に識別可能であり、本法はハイリスクスクリーニングに利用可能と思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年4月の熊本地震により、実験装置・器具ならびに遺伝子解析用の培養細胞等の多くを失い、予定していた研究が著しく遅延した。しかし、その中でも単一遺伝子病の疾患発症の新たな分子メカニズムを解明することができた。通常、常染色体性劣性遺伝病では、その原因遺伝子の両方のアリールにその遺伝子がコードする蛋白質を欠損させる病因遺伝子変異が、それぞれ1つずつ存在すると考えられている。すなわち、遺伝性疾患では遺伝子上の異常を1つの変異に帰結させるという考え方が一般的となっている。一方、多くの遺伝子には蛋白質の機能に顕著な影響を与えない多型が存在している。遺伝子解析の際には、過去のデータベースや発現実験等により、個々の塩基置換が変異であるか多型であるか判断されるが、多型の場合は病気の原因とは考えられず無視されてきた。ところが、申請者らはポンペ病をモデルとして遺伝子解析の結果、片方のアリールだけに遺伝子変異が同定され、もう片方には遺伝子変異がない実際の患者症例の遺伝子を詳細に解析し、病因遺伝子変異が存在しない方のアリールに存在する複数の遺伝子多型に着目した。そして、AαGlu発現コンストラクトに様々な組み合わせで多型を組み込み、酵素機能への影響を解析した。その結果、ある特定の多型の組み合わせで酵素活性が完全に欠損することを見出した。さらに。ポンペ病の遺伝子解析のデータベース(エラスムス大学ポンペセンター)に公開されている多型情報を用いて、AαGlu発現コンストラクトに様々な組み合わせで多型を組み込んだところ、複数の多型の組み合わせにより、いわば「複合型遺伝子変異」という現象が生じることを明らかにした。今後は、今まで無視されてきた複数の遺伝子多型により構成される「複合型遺伝子変異」のデータベースの構築が急務である。
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今後の研究の推進方策 |
現在、進行中の日本人ポンペ病の新生児スクリーニングをさらに進めると共に、平成28年度の成果として、新たな単一遺伝子病の発症メカニズムとしての「複合型遺伝子多型」のデータベースを構築することに力点をおいて研究を進める必要があると考えている。そのために、ポンペ病のデータベースとして公開されているAαGlu遺伝子上の様々な遺伝子多型を組み込んだ発現コンストラクトを作製し、酵素活性の測定ならびにウエスタンブロッティングの実施、さらに申請者が特許出願済の細胞粗抽出液(ホモジネート)を用いた目的蛋白質(ポンペ病の場合はAαGlu酵素蛋白質)の高次構造の異常を検出することができる「キモトリプシン・アッセイ」を用いて、解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年4月の熊本地震により、実験装置・器具ならびに遺伝子解析用の培養細胞等の多くを失い、予定していた研究が著しく遅延した。そのために、当初予定していた実験を行うことができず、研究費を使用することができなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
申請者らは、これまで遺伝病の原因とならないと考えらえていた遺伝子多型が、複数共存すると病気発症の原因となることを始めて明らかにした。この「複合型遺伝子多型]ともいうべき、概念はこれまで遺伝性疾患の発症メカニズムとしては無かったものである。この現象を明らかに「複合型遺伝子変異」データベースを構築するために、当該研究経費は使用する予定である。
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