研究課題
わが国に500万人以上の患者を抱える耐糖能異常 (Impaired glucose tolerance: IGT) ニューロパチーだが、その成因や進行パターン、そして point of no return については依然十分解明されておらず、その候補こそ数多く提唱されているものの、際立って有用な指標のない現状では、早期診断、早期治療も容易でない。本研究では、「真に臨床で有用なIGTニューロパチーの早期診断基準」を確立することを最終目標としている。本目標を達成するための具体的な手法の軸は、1.IGT患者情報のキュレーションと、2.蛋白質の翻訳後修飾に着目し、イメージング質量分析法を駆使した病態解析、および診断指標の探索である。4年計画の2年目にあたる平成28年度には、外来受診した新規IGT患者56例を対象に、前年度同様のキュレーションを行い、その結果に基づき、必要な生理学的、生化学的、病理組織学的検査を施行した。また、前年度までにベースラインのデータを得たIGT患者52例については、1年経過後の各データの推移を追跡した。加えて平成28年度には、従来数多く提唱されてきた、病態との関係が不明瞭な指標とは一線を画す、発症機序に則った病理学的診断指標を同定する目的で、末梢神経組織中のリン酸化α-シヌクレインに関する検討も開始した。これまでのところ、一部のIGT患者で末梢神経組織中にリン酸化α-シヌクレイン陽性像を呈することが確認できており、次年度以降、同陽性像の正確な頻度や患者情報との相関について更に深く検討し、リン酸化α-シヌクレインが発症機序に則ったIGTニューロパチーの新たな病理学的診断指標としてどの程度有用化を判定していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
初年度、2年目と、当初の計画を上回る新規IGT患者の生理学的、生化学的、病理組織学的検査結果を得ることができ、キュレーションが順調に進んでいること、更にはリン酸化α-シヌクレインが発症機序に則ったIGTニューロパチーの新たな病理学的診断指標の候補となりうる可能性があることが明らかになったことから、本研究は概ね順調に進展しているものと判断している。
1.前向き研究の継続 (平成29~30年度): 新規IGT患者について、過去2年間と同様キュレーションの結果に基づき、必要な生理学的、生化学的、病理組織学的検査を施行する。また、前年度までにベースラインのデータを得たIGT患者 (計108例) については、1年経過後の各データの推移を追跡する。2.新たな病理組織学的指標を同定するための研究 (平成29~30年度): 先述の如く、リン酸化α-シヌクレインが発症機序に則ったIGTニューロパチーの新たな病理学的診断指標としてどの程度有用化を判定していく。3.新たな生化学的指標を同定するための研究 (平成29~30年度): 従来数多く提唱されてきた、病態との関係が不明瞭な指標とは一線を画す、発症機序に則った生化学的診断指標を同定する。具体的には、血中、尿中グリセルアルデヒド由来終末糖化産物 (Glycer-AGEs) に関する検討を行う予定である。4.IGTニューロパチーの早期診断基準確立 (平成30年度): キュレーションの結果挙がった指標の組み合わせ+末梢神経組織へのリン酸化α-シヌクレインの沈着度、血中、尿中 Glycer-AGEs値の経年的推移と臨床所見の推移との相関について検証し、定量性を持った (スコア化された) IGTニューロパチーの早期診断基準を確立する。最終的に、本研究の成果は国内外の各学会で発表するとともに、欧文原著として世界に発信する。
他はほぼ当初の予定通りだったが、生理機能検査の一つであるマイクロニューログラフィ―に使用するタングステン電極が初年度購入分で賄われ、新規購入を必要としなくなったこと、病理組織学的検討で使用した各種抗体が予定より安価で購入できたことなどから、479,326円が次年度に繰り越しとなった。しかし、その一方で、次年度使用予定のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物 (Glycer-AGEs) 測定キットについては、計画当初より価格が上昇し、更には研究が順調に進んだ故にその測定件数も当初の予定を上回ることから、繰り越した479,326円は次年度の同測定キット購入費に充填することとした。
前述の如く、残る479,326円は次年度のグリセルアルデヒド由来終末糖化産物 (Glycer-AGEs) 測定キット購入費とする。
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