研究課題/領域番号 |
15K08624
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
三井田 孝 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80260545)
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研究分担者 |
平山 哲 順天堂大学, 医学部, 准教授 (10345506)
日高 宏哉 信州大学, 医学部, 准教授 (10362138)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 臨床化学 / 脂質検査 / 標準化 |
研究実績の概要 |
【背景】血清トリグリセライド(TG)は、動脈硬化の危険因子で、グリセロールに脂肪酸が3分子結合したものである。TGに結合する脂肪酸は多様で、TGの分子量は均一でない。そこで、TGをリパーゼで水解し、放出されるグリセロール量をもとにTG値を測定する。血中のグリセロールは、大部分がリポ蛋白中にTGとして存在するが、血清には少量の遊離グリセロールもある。脂肪組織のTGが分解された遊離グリセロールも血中に放出される。欧米では、遊離グリセロールもTG値に含めて測定(未消去法)するが、我が国では遊離グリセロールをあらかじめ消去してからTGを測定(消去法)する。これらの方法の妥当性の検証は不十分である。 【目的】(1)採血管が未消去法と消去法のTG値に影響しないか、(2)遊離グリセロールと遊離脂肪酸が相関するか、(3)遊離グリセロールは性別や肥満度と関連するか検討した。 【対象および方法】(1) 同一人からヘパリンLi管とプレーン管で採血し、TG値を消去法と未消去法で比較した。(2)空腹時採血の入院患者の検体で、未消去法と消去法でTGを測定し、その差を遊離グリセロールとした。遊離脂肪酸は酵素法で測定した。(3)男女別、BMI別で、遊離グリセロール濃度を比較した。 【結果】(1)未消去および消去法のTG値は、ヘパリンLi管とプレーン管で有意差はなかった。(2)遊離グリセロールと遊離脂肪酸は正相関を示した(n=53, R=0.701, p<0.0001) (3)遊離グリセロール値に、男女差はなかった。BMIが25以上の高値群では、BMIが25未満の低値群に比べて、遊離グリセロールが20%高かった。 【結論】TG未消去法と消去法で測定したTG値の差から遊離グリセロールを求めることができる。空腹時遊離グリセロールは、リポ蛋白のTG量より脂肪組織のTG量を反映することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、自動分析装置を用いてTGを未消去法と消去法で測定し、遊離グリセロールを測定する方法は確立した。その正確度を確認するために、ガスクロマトグラフィと質量分析装置を用いて、遊離グリセロール、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロールを分離・定量する測定系を、信州大学(分担研究者の研究施設)で確立する予定であった。現在もその検討が進行中であるが、血清サンプル中に大量のコレステロールが含まれているため、これが各成分の分離を困難にしており測定系の検討に時間がかかった。 健常サンプルを用いた場合には、ほぼ上記成分の分離・定量ができるめどがたっている。しかし、高脂血症の患者サンプルでも、きちんと分離できるかについて、もう少し追加検討が必要な状況である。現在は、検討予定のサンプルを採取し、輸送する準備ができている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)今後は、できるだけ早期に、ガスクロマトグラフィと質量分析装置を用いた測定系を確立する。これを用いて、2つの測定法のTG値の差として遊離グリセロールを自動分析装置で測定する方法の正確性を検証する。 (2)遊離グリセロールがリポ蛋白のTG量を反映するならば、TG値が高いほど遊離グリセロールが高いはずである。そこで、TG値が低値~高値を示す患者検体を集め、遊離グリセロールとTG値の関係を示す。 (3)遊離グリセロールが、脂肪組織で分解されたTG量を反映するならば、絶食時と食事摂取後では値が変動するはずである。そこで、健常ボランティアを対象とし、12時間以上絶食後と、食事を摂取した後の2点で採血し、遊離グリセロールを測定する。 (4)肥満者およびインスリン抵抗性のある者では、脂肪組織でのTG代謝に障害があると推定される。そこで、教育入院をした糖尿病患者を対象とし、インスリン抵抗性の指標と遊離グリセロールの関係を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、ガスクロマトフィ・質量分析装置による、遊離グリセロール、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロールの分離・測定系の確立が終了しなかった。そのために、その後の測定に伴う費用である採取検体の保存、前処理、輸送にかかる物品費とその他の費用に未執行の金額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
夾雑物質である大量のコレステロールを処理する方法についてめどが立った。健常人では、ある程度の正確性で測定できることがわかったので、高脂血症の患者でもうまく測定できるか、まず予備検討を行う。その上で、本格的な測定を行い、現在の自動分析装置による遊離グリセロール測定が十分に正確なものなのかを検証する。これが確認されれば、遊離グリセロール濃度に影響する可能性のある様々な因子について、患者検体で検討を行う。
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