研究課題
【背景】血清トリグリセライド(TG)の測定は、我が国では遊離グリセロール(FG)を消去してから測定(消去法)するが、欧米ではFGもTG値に含めて測定(未消去法)する。日本以外のアジア各国では、消去法と未消去法の両者が使われていて、国際的な標準化は未達成である。2法の差の原因である血清FGは、リポ蛋白のTGが分解されて血清中に放出されたものと、脂肪組織のTGが分解されて血清中に放出されたものがある。さらに、食事を摂取すると脂肪組織のTG分解は抑制されるが、リポ蛋白のTG分解は亢進する。【目的】(1)入院患者でFGがBMIと関連するか、(2)健常ボランティアでFGが食事摂取で変動するか、(3)消去法と未消去法で測定した食後のTGの変動が一致するか検討した。【対象および方法】入院患者185名と健常ボランティア26名を対象とした。入院患者では空腹時採血された残余血清を、健常ボランティアでは12時間以上絶食後の空腹時と食事摂取後30分の2点での血清を用いた。TGを未消去法と消去法でTGを測定し、その差をFGとした。【結果および考察】 入院患者、健常ボランティアのいずれもFGに男女差がないため、両者を一緒に解析した。入院患者をBMIで3群に分けると、BMI高値群のFGは、他の2群より有意に高かった(p<0.01, p<0.05)。食後に未消去法のTGは85%の健常者で上昇したが、未消去法では69%しか上昇しなかった。FGはほとんどの健常者で低下した。【結論】FG値は(1)BMIと正の相関を示し、(2)食事摂取により低下する。また、(3)未消去法でTGを測定すると、食後高TG血症を見逃す可能性がある。以上より、FGを消去してから測定する方法(消去法)は、血中リポ蛋白量をより正確に反映することが示唆された。TG測定法として、消去法が望ましいと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、これまで得られた結果を国内および国外の学会で発表し、さらにこれらをまとめた論文を英文誌に投稿して受理された。また、グリセロール分画(遊離グリセロール、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロール)を分離して定量する質量分析装置を用いた測定系を確立した(現在論文を執筆中)。さらに、遊離グリセロールをTGの未消去法と消去法の差から計算する方法では高TG血症で測定値の信頼性が低くなることがわかったため、遊離グリセロールを直接測定する系を確立した。
今年度までの検討で、遊離グリセロールは、平均値では低値であるが個人差があること、またBMIと相関することがわかった。そこで、今後は遊離グリセロールを直接測定する系を用いて、遊離グリセロールとインスリン抵抗性との関連性を調べる。また、空腹時と食後のグリセロール分画に違いがないか、質量分析装置を用いる系で解析する。
未使用額は15,844円と少なく、今年度は、ほぼ予定どおり予算を使用して研究を行えた。信州大学への検体輸送量が、今年度は予定より少なかったため残額が発生した。
次年度に、予定していた検体を信州大へ送って測定する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件) 図書 (3件)
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