研究実績の概要 |
スフィンゴ糖脂質は哺乳類では細胞膜の外側に分布し、スフィンゴ糖脂質が蓄積するスフィンゴリピドーシスと言われる一連の先天代謝異常症が知られている。しかしながら、各スフィンゴ分子種の網羅的な定量解析系が構築されておらず、スフィンゴ糖脂質の分子種レベルの代謝変動は十分に解析されていない。そこで、スフィンゴ糖脂質の網羅的定量解析系を確立することにより、スフィンゴ糖脂質の各分子種の代謝変動の解析し、糖脂質代謝の生理的・病理的意義の解明につなげることを目標とし研究を行った。本研究では、主に有機合成物における光学異性体分析に用いられているキラルカラムを用いることにより、従来用いられている疎水カラムでは難しかった糖鎖構造およびセラミド骨格構造の違いによりスフィンゴ糖脂質を分離可能な条件を見出した。これらの成果は幾つかの国内学会で発表済みである。また、高感度分析に資する超微量注入法(nano-flow)を長時間安定的かつ簡便に行うためにTriversa NanoMateも既に導入し、スフィンゴ糖脂質の高感度検出のための詳細な設定を検討している段階である。 また生体サンプルへの適応として、HeLa細胞およびマウス脳より抽出した総脂質を用いて中性糖脂質およびガングリオシドおける脂肪酸分子種ごと(炭素数C14-C30, 二重結合0または1を有する脂肪酸)の定量解析を行った結果、以前に報告のあった分子種以外の分子種も多く存在することが確認できた。現在、キラルカラムを用いたスフィンゴ糖脂質の分離系の確立について論文を執筆中である。今後、糖脂質の網羅的定量解析系が確立されれば、スフィンゴ糖脂質の蓄積が要因と考えられる先天代謝異常疾患のライソゾーム病やペルオキシソーム病をはじめとする疾患の新規発症前診断のマーカーや創薬ターゲットの発見が期待でき、臨床応用に貢献するものと思われる。
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