研究課題/領域番号 |
15K08629
|
研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
小林 典裕 神戸薬科大学, 薬学部, 教授 (90205477)
|
研究分担者 |
大山 浩之 神戸薬科大学, 薬学部, 助教 (80572966)
森田 いずみ 神戸薬科大学, 薬学部, 助手 (20299085)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 抗体 / 変異抗体 / バイオマーカー / 進化分子工学 / ファージ提示 / パンニング / デジタル検出 / マイクロアレイ |
研究実績の概要 |
疾患バイオマーカーを認識・捕捉する抗体は、その検査法を確立するうえで強力なツールになる。現在、診断用抗体は主にハイブリドーマ法で調製されているが、その機能を遺伝子操作により改善することができる。抗体のH鎖およびL鎖可変部の遺伝子にランダム変異を加えた後に一本鎖Fvフラグメント (scFv) の遺伝子に変換し、適当な宿主内で発現させて莫大な多様性をもつ変異scFvの「ライブラリー」を調製し、偶然に生成した改良型分子種を選択・単離する。その効率を高めるために、scFvを繊維状バクテリオファージ粒子の表面に発現させて「scFv提示ファージ」のライブラリーを作製し、ごく希少な改良型分子種を、大量に副生する「改悪分子種」から選別しつつ単離する。具体的には、目的の抗原を固定化した固相にファージライブラリーをまとめて反応させて、非特異的なファージを洗浄・除去した後に、特異的なファージを溶出・回収する (この手法を「パンニング」と呼ぶ)。以上の原理と実験系は既に確立され、天然の抗体を遥かに上回る変異抗体を創出しうる革新的な方法と期待されてきた。しかし、現実にはそのような水準に程遠い。パンニングによる改良型クローンの選別効率の悪さがその主因である。我々は、この問題を抜本的に解決するために、scFv提示ファージのクローニングと選択を同時に行う新たな方法を考案した。昨年度は、申請調書に記載した原理をより現実的な方法、すなわち、ファージそのものではなくこれからファージを産生するヘルパーファージ感染菌をクローニングする方法に改良した。今年度は、多様性が比較的小さいscFv提示ファージのモデルライブラリーに本法を適用し、その有用性を検証した。その詳細は、以下の「現在までの進捗状況」の項に詳述する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ファージ提示変異抗体ライブラリーから高性能抗体を単離するうえで、在来の「パンニング」では限界がある。そこで、マイクロアレイの原理に基づいて改良抗体を提示するファージを「デジタル検出」する新規な単離法の開発を進めている。すなわち、変異抗体 [一本鎖Fvフラグメント(scFv)] の遺伝子を導入した大腸菌ライブラリーにヘルパーファージを感染させた後に、感染菌を多数の96ウェルマイクロプレートに分散・播種する。感染菌はウェル内でscFv提示ファージを産生するが、scFvが目的抗原に特異的ならば予めウェルにコーティングされた抗原に捕捉され、我々が自作したルシフェラーゼ標識抗ファージ抗体により検出される。本選択法の有用性を評価するために、あえて多様性を制限した変異scFvの「ミニライブラリー」を構築した。先に、当研究室ではエストラジオール (E2) に対するscFv (scFv-wt) を、3段階のランダム変異を経て親和力(Ka) を150倍以上改善することに成功した。さらに、本変異体 (scFv#m3-a18) に導入された11カ所のアミノ酸置換のうち4カ所が親和力の向上に重要であり、これらの置換のみを導入した変異体 (scFv-4mut) も同様のE2結合能を示すことを明らかにした。そこで、この4カ所にそれぞれ6種のアミノ酸がランダムに出現するscFv遺伝子ライブラリー (scFv-4mutの配列も含めて1296種の変異体が出現しうる) を作製し、上記の選択法によりscFv-4mutと同等かそれ以上の親和力を持つクローンを従来よりも容易に得ることが可能かを検討した。その結果、競合ELISAにおいてscFv-4mutと同等の感度を示す (すなわち、scFv-4mutと同等の親和力を持つ) 多数のクローンが一挙に得られ、現在開発中の選択法は有望と思われた。
|
今後の研究の推進方策 |
上記のように、改良抗体分子を提示するファージをデジタル検出する新規な選択・単離法を構築しつつある。今後は、より多様性の大きな実践的なscFvライブラリーから、希少な高親和力scFvを、従来法に比べて格段に容易かつ迅速に単離できるか否かを検証する。そのために、上記のscFv-wtの4つの変異点について、抗体の抗原結合部位に頻出する12種類のアミノ酸がランダムに出現するライブラリー (20736種類のクローンを含む) や、20種のタンパク質構成アミノ酸の全てが出現するライブラリー (160000種類のクローンを含む)を作製して、高親和力抗E2 scFvクローンの単離を試みる。また、相補性決定部 (CDR) をランダム化したライブラリーに対しても上記選択法を適用し、本法の有用性を検討する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ、予定通りの支出であったが、残額が少なくなり、必要な物品を購入するには足りなくなったため、次年度使用することとした。
|
次年度使用額の使用計画 |
必要な試薬の購入に使用する。
|