研究課題/領域番号 |
15K08634
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
浅原 哲子 (佐藤哲子) 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 研究部長 (80373512)
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研究分担者 |
長谷川 浩二 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 展開医療研究部, 研究部長 (50283594)
小谷 和彦 自治医科大学, 医学部, 教授 (60335510)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 肥満 / 単球 / マクロファージ / ミクログリア / 炎症 / 血管合併症 / 認知症 |
研究実績の概要 |
本研究では、初年度に肥満・糖尿病モデルマウス骨髄の網羅的遺伝子発現解析から、肥満・糖尿病感受性遺伝子群を同定した(1474遺伝子)。本年度では、その中でも特にTREM2遺伝子の発現が、骨髄のみならず腹腔の炎症性マクロファージにおいても亢進することを見出した。TREM2は主に単球・マクロファージ・ミクログリアの細胞表面分子であり、これまでゲノムワイド関連解析等により認知症との関連が示唆されている。また、肥満・糖尿病は認知症発症要因として注目されるが、その実態や最大規定因子は不明である。 そこで、肥満・糖尿病合併症に関わる新規候補分子としてTREM2に焦点を当て、肥満症・糖尿病多施設共同前向きコホートを基盤に、糖尿病患者の認知機能低下におけるTREM2の臨床的意義を横断的に検討した。糖尿病患者210例のうち非肥満群107例では肥満群103例に比し、認知機能指標・MMSEが低下し、さらに多変量解析により、非肥満群では認知機能低下が血清TREM2上昇と関連することを見出した。また、血清TREM2は、非肥満群ではHbA1c、CRPと正相関、アディポネクチンと逆相関を示す一方、肥満群ではそのような関連は示さなかった。以上、非肥満糖尿病患者にて、血清TREM2は糖代謝能悪化・炎症亢進を介した認知機能低下の新規バイオマーカーである可能性が示唆された(日本肥満学会, 2016)。 申請者はさらに、脳内炎症・認知症に関連するミクログリアについて、生活習慣病薬による炎症抑制作用とその分子機構を検討した。分子遺伝学的・生化学的解析から、オメガ3系脂肪酸は、ミクログリアにて長寿遺伝子SIRT1活性化を介して転写因子NF-kBを抑制し、過剰な炎症を抑制するとともに、SIRT1依存的にオートファジーを誘導することで細胞小器官の品質管理・細胞機能維持に寄与する可能性を初めて明らかにした(BBA, 2017)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 本研究の初年度に同定した骨髄における肥満・糖尿病感受性遺伝子群の中から、認知症との関連が示唆されるTREM2遺伝子の発現が、肥満・糖尿病モデルマウスの骨髄のみならず腹腔の炎症性マクロファージにおいても亢進することを初めて見出した。 2. さらに、申請者らにより構築された国内初の肥満症・糖尿病多施設共同前向きコホートを基盤とした横断解析から、血清TREM2は、非肥満糖尿病患者において、糖代謝能悪化・炎症亢進を介した認知機能障害の新規バイオマーカーとなる可能性を初めて明らかにした(日本肥満学会, 2016)。 3. 現在、本研究にて肥満・糖尿病感受性遺伝子として初めて同定した新規分子TREM2の認知機能低下における臨床的意義のさらなる検討のため、本コホートを基盤として認知機能低下に関する縦断解析を進めている。 4. さらに、肥満・糖尿病関連認知機能低下におけるTREM2の病態生理学的意義の解明のため、TREM2ノックアウトマウスの作製を行い成功した。現在、当該マウスの表現型解析の準備を進めている。 5. また、生活習慣病薬の新たな作用機序として、オメガ3系不飽和脂肪酸(EPA・DHA)が、脳内炎症・認知症に関わるミクログリアに対し、長寿遺伝子SIRT1活性化を介して過剰な炎症応答を抑制することを見出した。さらに、SIRT1依存的にオートファジーを誘導して細胞機能維持に関わる可能性を初めて認め、オメガ3系不飽和脂肪酸によるミクログリアの炎症抑制作用とその分子機構を初めて明らかにした(BBA, 2017)。現在、他の生活習慣病薬によるミクログリア・単球・マクロファージ機能改善作用の解析も同様に推進している。
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今後の研究の推進方策 |
I. 臨床研究:肥満症・糖尿病多施設共同前向きコホートにおけるTREM2の臨床的意義の検討 本年度までの研究成果に立脚し、肥満・糖尿病合併症進展に関与する新規分子として、肥満・糖尿病に伴う認知機能障害におけるTREM2の病態生理学的意義を明らかにする。本コホートを基盤とした縦断解析にて、認知機能の変化と、血清TREM2、末梢血単球の炎症性M1/抗炎症性M2比や体組成・代謝指標・炎症等の変化との関連を検討し、認知機能低下に影響する関連因子としてのTREM2の臨床的意義を解明する。さらに、食事・運動療法・禁煙等の生活習慣改善・減量や糖尿病薬等の生活習慣病薬が血清TREM2や単球機能に及ぼす影響を解明する。特に新規糖尿病薬・インクレチンやPPARリガンド(TZDs・EPA・DHA等)による抗炎症・抗動脈硬化作用との関連を検討する。 II. 基礎研究:新規肥満・糖尿病感受性遺伝子TREM2の病態意義の検討 肥満・糖尿病モデルマウス、TREM2ノックアウトマウス(本研究計画に沿い作製完了)を用い、高脂肪食有無にて、肥満・糖尿病に伴う認知機能変化(行動試験)を中心に、脳の組織学的変化、骨髄・末梢血単球の機能的変化、脂肪組織を含む各組織の炎症レベル等を検討する。また、マウスミクログリア細胞株、ヒト単球系細胞株THP-1やヒト末梢血単球を用い、遊離脂肪酸・高血糖等の刺激に対するTREM2発現変化の他、抗TREM2刺激抗体による炎症応答や関連シグナル経路の同定・活性化レベルの検討、TREM2のノックダウンや過剰発現による炎症応答への影響を検討することにより、TREM2を介した炎症応答の分子機構を明らかにする。以上より、肥満・糖尿病におけるTREM2の病態生理学的意義を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に予定している肥満症・糖尿病前向きコホートにおける臨床研究(認知機能の変化と、血清TREM2、末梢血単球の炎症性M1/抗炎症性M2比や体組成・代謝指標・炎症等の変化との関連についての縦断解析によるTREM2の臨床的意義の解明)推進のためには、ホルモン測定用ELISAキット代、血液検査外注費やヒト単球の機能解析のためのMACS/FACS関連抗体、研究補助の謝金等が必須である。また、肥満・糖尿病モデルマウス及び新規分子・TREM2のノックアウトマウスを中心とした基礎研究(機能解析と病態意義の解明)推進のためには、上記臨床研究と共有できる試薬の他(抗体等)、専用培地、遺伝子操作関連試薬(ノックダウンキット等)、細胞機能解析試薬、定量PCR関連試薬やマウス維持費等が必要である。
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次年度使用額の使用計画 |
以下の計画に基づいて研究費を使用し次年度研究計画を推進する。 1.消耗品:①ヒト・マウスホルモン測定(ELISAキット代・血液検査外注費):約15万円、②分子生物学関連試薬(MACS/FACSの抗体、PCRのプローブ・キット関連試薬等):約15万円、③培養関連試薬(ウシ胎仔血清、メディウム、抗生物質等)(細胞実験):約10万円、④細胞機能解析関連試薬(RNA調製試薬、定量PCR関連試薬、サイトカイン測定試薬、遺伝子導入関連試薬、ノックダウン関連試薬、刺激抗体等)(細胞実験):約10万円、⑤飼育管理費(動物の購入代、管理代、餌代含む)(動物実験):約25万円。2.旅費:国内外の各学会での成果発表のための旅費:約20万円。3.謝金:研究補助員数名の実験補助代、外国語論文の校閲:約30万円。4.その他:印刷費・研究成果投稿料等:約10万円
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