Acinetobacter属が感染症を起こした場合、治療に難渋する症例が近年報告されるようになってきた。また、菌種の違いによって治療反応性やその予後が異なる可能性が指摘されはじめている。しかしながら、現状はAcinetobacter属の菌種レベルまでの正確な同定がなされることは少なく、菌種ごとの確立された治療法が存在しない。一方、臨床検体においては、喀痰からの分離が最も多いといわれているが、分子疫学的知見は明らかにされていなかった。したがって、本研究では、東北大学病院において臨床分離された喀痰由来Acinetobacter spp. 61株について、分子疫学的解析を行った。 研究対象株のうち、最も分離頻度の高かったのは、A. nosocomialis、次いでA. soli、A. pittiであった。その他、A. baumannii、Acinetobacter gen.sp 13BJ、A. ursingiiなど多様な菌種が分離された。カルバペネム耐性株は5株あり、すべてnon-A. baumanniiであった。耐性機序はIMP-34の産生とporinの欠損の関与が示唆された。これらはすべて同一のインテグロン構造を有しており、耐性遺伝子が菌種を超えて伝播していることが示唆された。カルバペネム耐性株はIMP-34産生によるものであり、IMP-34を含むインテグロン構造は、カルバペネム耐性株にすべて共通しており、菌株の地域特性、さらにはIMP-34の地域内における拡散の可能性が示唆された。特にA. soliと、Acinetobacter gen. sp.13BJ/14TUはclass 1 インテグロン構造であり、最も上流にIMP-34が配置され、AacA4とOXA-1をコードする同一の構造であった。Acinetobacter gen. sp.13BJ/14TUはOXA-58も有し、その上流と下流にISAba3が配置されたトランスポゾンの構造をとっていた。本インテグロンは既知の報告とは構造が異なり、腸内細菌科のInc type plasmidを保有していないことから、既出のIMP-34とは由来が異なる可能性が示唆された。
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