研究課題
造血幹細胞移植の予後改善には合併症の予防及び治療法の確立が重要である。これまでの報告によると、移植前処置やドナー細胞、免疫抑制剤の投与などによって、血管内皮細胞が刺激を受け、凝固系、炎症などが亢進することや、T細胞・単球・顆粒球の活性化および組織への遊走が亢進することにより、移植後合併症が起こると考えられている。今回、免疫抑制剤であるタクロリムス投与が血管内皮細胞の凝固・線溶系因子および炎症性サイトカイン、HO-1、接着因子発現に及ぼす影響について検討し、以下の成果を得た。1.HUVECにタクロリムスを投与した結果、HO-1以外の全ての因子のmRNA発現量が有意に増加した。2.シグナル伝達阻害剤による検討では、IL-6はp38MAPK、PI3Kの阻害により、ICAM-1はp38MAPK、JNK、PI3Kの阻害により、TMはMEKの阻害により、PAI-1はp38MAPK、JNK、PI3Kの阻害により、有意な発現抑制がみられた。タクロリムス投与によりp38MAPK、MEK、JNK、PI3Kなどのシグナル伝達経路が活性化され、TF、TM、PAI-1、IL-6、ICAM-1の発現が増加することが明らかとなった。3.フルバスタチンは、タクロリムス刺激によるTF、IL-6の発現増加を抑制することが明らかとなった。以上の結果より、タクロリムス刺激により血管内皮細胞が傷害を受けると、p38 MAPK、MEK、JNK、PI3Kなどのシグナル伝達経路が活性化され、炎症性サイトカインやインターフェロン、細胞接着因子などに加えて、TF、PAI-1などの凝固・線溶系因子の産生を誘導すると考えられた。 また、発現が増加したTF、IL-6などによりシグナル伝達経路がさらに活性化され、過凝固・炎症亢進状態になると考えられた。今回の検討では、HO-1は変動を示さずタクロリムスの内皮傷害にはほとんど関与しないと考えられた。また、スタチン投与により、TF、IL-6などの発現増加が抑制され、過凝固・炎症亢進状態が軽減することが示され、合併症予防薬としての可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)にタクロリムスによる刺激を行い、刺激3時間後、6時間後、24時間後、48時間後に細胞からtotal RNAを抽出し、RT-PCR法を用いて組織因子(TF)、トロンボモジュリン(TM)、インターロイキン-6(IL-6)、ICAM-1、プラスミノゲンアクチベータ・インヒビター-1(PAI-1)、HO-1のmRNA発現量を半定量した。次に、HUVECに各種シグナル伝達阻害剤を添加し、その1時間後にタクロリムスを投与し、TF、IL-6、ICAM-1発現量は6時間後、TM、PAI-1発現量は48時間後のmRNA発現量を定量した。HUVECに脂溶性スタチンであるフルバスタチンを添加し、その1時間後にタクロリムスを投与し、6時間後の各種mRNA発現量を半定量した。このように、in vitroにおける血管内皮細胞の実験はおおむね順調に進んでいる。HO-1が免疫抑制剤であるタクロリムスの影響をほとんど受けてはいないことが明らかとなったが、凝固・線溶系因子、炎症性サイトカイン、接着蛋白などが変動することが確認でき、その変動をスタチンが改善することも明らかとなった。今回、タクロリムスではHO-1への影響が明らかとならなったため、他の免疫抑制剤であるサイクロスポリンについても、検討することを考えている。
1.in vitroの実験の続きとして、免疫抑制剤の検討に加えて、放射線照射の影響なども検討する。2.in vivoの実験として、骨髄移植後ラットモデルにおけるHO-1の移植後合併症阻止作用の検討を進める。
研究計画では、H27年度は動物実験を計画していたが、実際にはin vitroでの培養細胞を用いた実験をおこなったため、次年度使用するための助成金が発生した。
H28年度は当初H27年度に計画していたラットの骨髄移植モデルを用いた実験を計画しており、当該助成金を使用する予定である。
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