研究課題/領域番号 |
15K08643
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
森下 英理子 金沢大学, 保健学系, 教授 (50251921)
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研究分担者 |
谷内江 昭宏 金沢大学, 医学系, 教授 (40210281)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タクロリムス / 造血幹細胞移植 / 血管内皮細胞 / トロンボモジュリン / アンギオポエチン-1 |
研究実績の概要 |
【目的】造血幹細胞移植の予後改善には、移植後合併症の予防及び治療法の確立が重要である。前回までの研究により、GVHD予防などに用いられる免疫抑制剤タクロリムス(FK506)は血管内皮細胞を傷害し、IL-6、ICAM-1、VCAM-1、トロンボモジュリン(TM)、PAI-1などの発現を増加することを明らかにした。今回は、特に血管透過性に影響を及ぼす因子に着目し、血管新生関連因子として知られているアンギオポエチン-1(Ang-1)およびそのアンタゴニストであるアンギオポエチン-2(Ang-2)、Ang-1のレセプターであるTie-2についてmRNA発現量を検討した。 【方法】1)ヒト臍帯静脈血管内皮細胞を高用量のFK506で刺激し、以上の3つの因子のmRNA発現量を測定した。2)さらに、同種造血幹細胞移植予後を改善すると期待される遺伝子組換え可溶性TM(rTM)前投与が、FK506刺激による内皮傷害を軽減されるかどうかについても検討した。 【結果】1)FK506(30μg/ml)刺激により、IL-6、ICAM-1、VCAM-1、PAI-1 mRNA発現量が増加し、Ang-1 mRNA発現量は約50%減少し、Ang-2 mRNAもやや減少、Tie-2 mRNAは有意な変動を示さなかった。2)高用量のrTM(50μg/ml)前投与により、ICAM-1発現の増加を抑制し、Ang-1発現減少を抑制した。 【考察】以上のことから、高用量のFK506はAng-1発現の著減により血管透過性の亢進を惹起する可能性が示唆された。一方、rTM前投与がFK506によるICAM-1発現の増加を抑制、Ang-1発現減少を抑制し、内皮機能障害の軽減をもたらし、結果として急性GVHD、類洞閉塞症、血栓性微小血管障害症などの移植後合併症の予防のために有効な治療戦略となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前回に引き続き、免疫抑制剤タクロリムスによる血管内皮傷害の検討を行ったが、今回は血管透過性の亢進を惹き起こす要因に着目し、Ang-1 mRNAが半減することを初めて明らかにした。さらには、rTM前投与が、Ang-1の減少を改善することを明らかにしたことは、類洞閉塞症などの移植後合併症の予防戦略を考える上で、極めて意義がある。 以上のように、血管内皮細胞を用いたin vitroの研究は、おおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1.in vitroの実験の続きとして、FH506がAng-1を半減させる機序について、シグナル伝達経路を検索する。 2.今回、FK506の投与量が大量であったため、FK506に対する感受性がHUVECよりも高い培養細胞(ヒト大動脈血管内皮細胞あるいはヒト腎静脈血管内皮細胞など)を用いて、投与量をより臨床で用いる濃度に近づけて再検討する。 3.in vivoの実験として、骨髄移植後ラットモデルにおけるヘムオキシゲナーゼ-1の移植後合併症阻止作用の検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画では、骨髄移植を行ったマウスにおけるヘムオキシゲナーゼー1(HO-1)誘導の影響をin vivoで検討する予定であったが、昨年度得られた結果をさらに発展させるために引き続きヒト臍帯血血管内皮細胞を用いたin vitroの実験を行った。その結果、マウスを用いた実験を行うことができず、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度は最終年度であり、当初から計画していたラットの骨髄移植モデルを用いた実験を実施し、当該助成金を使用する予定である。HO-1による血管内皮傷害予防作用の検討に加えて、これまでのin vitroの実験結果より得られたスタチン製剤、あるいはリコンビナントトロンボモジュリンなの移植後合併症予防効果も、マウスを用いて検証したい。
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