サイトメガロウイルス(CMV)はCD34陽性造血幹細胞やマクロファージなど様々な細胞に感染する。その細胞指向性は免疫不全患者や臓器移植後の患者での網膜炎や肺炎、骨髄炎、先天性CMV感染における網脈絡膜炎、聴覚障害、精神未発達、肝炎などの様々な疾患と関連すると考えられる。我々は、先天性CMV感染児の尿から複数の細胞株を用いてCMVの分離培養を継続的に行ってきたが、同一個人から上皮・内皮系細胞への感染効率が異なる CMV 株を分離することができた。本研究ではこうして分離したCMV株の全ゲノムシークエンスにより細胞指向性を決定する責任遺伝子を特定し、その領域について型判別可能な迅速診断法の開発を試みた。 細胞指向性の異なるウイルス株5セット計10株について次世代シークエンサーとPCRダイレクトシークエンスによってシークエンスを行い、各株とも全ゲノムの85%前後のシークエンスを決定できた。 サイトメガロウイルスは株間で多型を示す遺伝子が複数存在するが、同一個人から分離された株間でそれらの遺伝子に違いはなく、同一個人に感染していた細胞指向性の異なるウイルス株は同一株からの派生型であることが示された。塩基配列が決定できた領域、特に研究室株で細胞指向性に関与していると報告のある遺伝子およびULb'領域(UL133-UL138)について、我々が分離した株では違いは認められなかった。このことは臨床分離株ではこれまで報告のあった細胞指向性に関与する遺伝子以外にその責任遺伝子が存在することを示唆している。一方で、ウイルスゲノムのメチル化などのエピジェネティックな制御をウイルスが受けることも徐々に明らかになってきており、CMVの潜伏感染にヒストンが関与することも報告されている。今後は、CMVゲノムのエピジェネティクスと細胞指向性との関係について調べ、CMVが原因とされている疾患との関連性について明らかにしたい。
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