研究課題/領域番号 |
15K08650
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
王寺 典子 (下嶋典子) 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (30398432)
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研究分担者 |
伊藤 利洋 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (00595712)
石谷 昭子 奈良県立医科大学, 医学部, その他 (40112544)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | HLA-F / 腫瘍 / 悪性度 |
研究実績の概要 |
HLA-Fは、非古典的HLA クラスI 遺伝子に分類されるHLA遺伝子で、通常のHLA遺伝子とは異なり、非常に多型性に乏しい。またタンパクとしての発現は細胞質のみで、細胞表面には発現しないと考えられていたが、我々は細胞質および細胞表面に発現するHLA-F に特異的に反応するモノクローナル抗体の作製に成功し、HLA-Fが、妊娠後期胎盤トロホブラスト、活性化免疫担当細胞の細胞表面に発現することを示してきた。 さらに、HLA-F が通常のHLAクラスI 分子とは異なり、多様な発現様式で発現すること、クロスプレゼンテーションに関与すること、Killer Immunoglobulin-like Receptor (KIR) のリガンドとなりうることが明らかになり、何らかの免疫調節作用を持つのではないかと期待されている。そのため、免疫調節機構の破綻による腫瘍増悪化とこのような腫瘍細胞上のHLA-Fの発現との関連が注目され、腫瘍悪性度、予後との関連が調べられている。 我々もすでに、共同研究者であるDan Geraghtyらが作製した抗HLA-F抗体を用いて、新鮮凍結標本を解析しており、その中で、HLA-Fが甲状腺未分化癌、腎細胞癌、胃癌等の特に低分化癌に強く発現し、高分化癌では、その発現が弱いことを見出している。このことから我々は、HLA-Fが低分化癌のマーカーになるのではないかと考えており、本研究では、より多くの腫瘍標本における解析を可能にするため、ホルマリン標本を用いたHLA-F発現解析方法を確立し、これらにおけるHLA-Fの発現解析を行い、HLA-Fの腫瘍マーカーとして有用性、さらにはHLA-Fと腫瘍増悪化、予後低下との関連について明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、6種の抗HLA-F抗体のホルマリン標本染色法の確立および胃癌、大腸癌などの腺癌を中心に解析を始めること、in vitro解析のためのHLA-F陽性細胞株の検索を目標として本研究を進めてきた。 我々はこれまでに6種の抗HLA-F抗体を作製しているが、このうち、新鮮凍結標本において使用可能であったのは1種のみであり、この抗HLA-F抗体のホルマリン標本における解析条件を確立し、先に新鮮凍結標本で得られた結果のホルマリン標本での検証を試みた。 染色条件の確立については、後期胎盤のホルマリン標本を陽性コントロールに使用し、後期胎盤の絨毛外トロホブラストに強くHLA-Fを検出できる染色条件の確立に成功した。 この染色条件を用いて、胃癌、大腸癌のホルマリン標本各10例について、HLA-Fの発現解析を行ったところ、低分化であるほどHLA-Fの発現が強い傾向は見られたが、粘液等にも強く反応が見られたことと、正常細胞において新鮮凍結標本とは異なる発現が見られたことから、現在は染色条件の再検討、および細胞株を使用して、HLA-Fの細胞における局在部位の検討を進めている。 HLA-F陽性細胞株については低分化・中分化・高分化・正常の大腸癌株について発現解析を行っているが現段階においてはHLA-F陽性細胞株を見いだせていない。今後、細胞株を増やし検討を継続していく予定である。 現段階ではホルマリン標本においても低分化癌であるほどHLA-Fの発現強度が強い傾向は得られたが、染色条件の再検討を行う必要があること、またHLA-F陽性細胞株の検索も継続する必要があることなどから、現在までの達成度は「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、ホルマリン標本における免疫組織染色条件の確立は必須項目であるので、平成27年度に検討した染色条件の問題点を早期に解決し、あらゆる標本に使用可能となる染色条件の確立を目指す。また、残り5種の抗HLA-F抗体の染色条件の確立を急ぎ、胃癌、大腸癌などの腺癌を中心に解析を始める。 HLA-F陽性腫瘍細胞株については、検索を継続すると共に、HLA-Fの細胞における局在部位をフローサイトメトリー、免疫染色で明らかにする。細胞におけるHLA-Fの発現について、ホルマリン標本の結果との整合性をとり、腫瘍細胞におけるHLA-Fの発現が分化度に関連するのか、腫瘍マーカーとして有用であるのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度中に抗HLA-F抗体のホルマリン標本の免疫組織染色条件の確立を行う予定であったが、未だ染色条件を確立できていないことから、多重染色に使用する抗体等の購入を控えた。また、in vitro解析に使用するためHLA-F陽性腫瘍細胞株の検索も現在継続中であり、この細胞株を使用して行う予定であったHLA-Fノックダウン細胞株、あるいは高発現細胞株の作製も遅れているため、これに関連する試薬の購入も控えた。以上の点から、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度中に抗HLA-F抗体のホルマリン標本の免疫組織染色条件を確立し、同一条件で染色可能な腫瘍マーカー等多重染色に使用する抗体を購入する。(腫瘍マーカー、TAM マーカー ¥50,000/100ug×4 本(条件検討のため)=¥200,000―、免疫染色用2 次抗体(FITC 標識、PE 標識等)¥50,000/本×4 本(多重染色を行うため、動物種の違うものを揃える)=¥200,000―)。
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