研究課題
本研究は、高齢者骨髄(黄色髄 / 脂肪髄)内で生き残り、治療後再発を多く認める急性骨髄単球性白血病(AMoL)をモデルとして、AMoL細胞中の脂肪酸代謝が、遺伝子転写や生存シグナル活性化に果たす役割を解明することを目的とする。当該年度の研究では、骨髄脂肪細胞との共培養下でのAMoL細胞に対する脂肪酸代謝阻害剤のアポトーシス効果を検証した。これによって、AMoL細胞が獲得した抗アポトーシス能が、脂肪酸β酸化依存性であることを証明された。この知見は、脂肪細胞が増生した高齢者の骨髄中においてAMoL細胞の生存が脂肪酸代謝に強く依存していることを示唆するものである。次に、骨髄脂肪細胞との共培養および脂肪酸β酸化阻害剤使用後のAMoL細胞株の遺伝子転写プロファイルの変化をRNA-seqおよびcap analysis of gene expression (CAGE)解析により検出した(Hiseq 2000, illumina)。その結果、AMoL細胞が脂肪細胞との相互作用の中で脂肪酸酸化を亢進させる一方、脂肪酸合成を抑制することがわかった。また、脂肪細胞との共培養時に強く働く因子としてp38MAPKの経路が特定されたほか、脂肪酸代謝抑制時に起こる変化として、小胞体ストレス因子であるATF4の誘導が検出され、アポトーシスとの関連が示唆された。すなわち、骨髄脂肪細胞との共培養下でのAMoL細胞では、これらの遺伝子転写システムの変化が細胞シグナル経路に作用し、その結果生じる脂肪酸β酸化の亢進や細胞の増殖抑制等が抗アポトーシス能の獲得に作用すると考えられた。次年度以降の研究により、高齢者の骨髄中に存在する白血病細胞のがん代謝制御マーカーを同定し、新規脂肪酸代謝阻害剤を用いたがん細胞特有の代謝を標的とした治療戦略を提案する。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究には、AMoL細胞株(U937, THP1)と正常ヒト骨髄間質系幹細胞 (mesenchymal stem cell; MSC)およびMSCから分化誘導した骨髄脂肪細胞を用いた。AMoL細胞に対して脂肪酸代謝阻害剤(Etomoxir)を添加し、脂肪酸代謝抑制による抗白血病作用がMSCや骨髄脂肪細胞との共培養でどのように変化するかを調べた。その結果、骨髄脂肪細胞との共培養下でAMoL細胞が獲得した抗アポトーシス能が、脂肪酸β酸化(FAO)依存性であることを証明された。さらに、骨髄脂肪細胞との共培養およびFAO阻害剤(Etomoxir)使用後のAMoL細胞株の遺伝子転写プロファイルの変化をRNA-seqおよびcap analysis of gene expression (CAGE)解析により検出した(Hiseq 2000, illumina)。その結果、脂肪細胞との共培養では脂肪酸合成に働くSREBP1が抑制され、SREBP1の発現は脂肪酸代謝阻害によって回復することがわかった。これは、AMoL細胞が脂肪細胞との相互作用の中で脂肪酸酸化を亢進させる一方、脂肪酸合成を抑制しているということを証明するものと考えられた。また、脂肪細胞との共培養時に強く働く因子としてp38MAPKの経路が特定されたほか、脂肪酸代謝阻害剤(Etomoxir)によって、小胞体ストレス因子であるATF4の誘導が検出された。これらの結果は、骨髄脂肪細胞との共培養下でのAMoL細胞では、遺伝子転写や細胞シグナルによる調整のもとで脂肪酸β酸化の亢進や細胞の増殖抑制等が起こり、これらはいずれも抗アポトーシス能の獲得に作用していると考えられた。以上のように、本年度は、当初予定通りの達成度が得られた。
今後の研究では、脂肪酸β酸化阻害剤によって生じる細胞内シグナルの活性変化を検出する。研究の推進方策としては、骨髄脂肪細胞によるアポトーシス抑制効果が強く認められたAMoL細胞株について、脂肪酸β酸化阻害剤(Etomoxir)を用いて骨髄脂肪細胞によるアポトーシス抑制効果の消失を確認する。また、その際のAMoL細胞の脂肪酸代謝の変化 (FAO促進とROS抑制) を酸素消費量、乳酸産生量、ミトコンドリア膜電位変化の検出等により検出する。同時に、培養液上清中の脂肪酸、ケトン体量の変化(ELISA)を調べる。また、CETOF-MSシステム (Agilent Technologies)を用いてAMoL細胞内の代謝変化を網羅的に測定する。最終的には、AMoL細胞の生存に関わる脂肪酸代謝 - 転写 - 細胞シグナルネットワークを抽出、標的マーカー候補を選択し、siRNAを用いたノックダウン試験により機能解析を行う。また、新たな脂肪酸代謝阻害剤を用いた検討に着手する。
検討項目の実施順位を変更し、骨髄脂肪細胞との共培養条件化のAMoL細胞を用いたRNA-seqおよびcap analysis of gene expression (CAGE)解析による遺伝子転写プロファイルの変化の検出を本年度に実施し、CETOF-MSシステムによる代謝変化の網羅的測定を次年度以降に実施することとしたことによって次年度使用額が生じた。CETOF-MSシステムによる代謝変化の網羅的測定、iTRAQプロテオーム解析を次年度以降、予定通り実施する。これによって今回生じた次年度使用額は、適正に使用される。
CETOF-MSシステムによる代謝変化の網羅的測定、iTRAQプロテオーム解析を次年度以降、予定通り実施する。これによって今回生じた次年度使用額は、適正に使用される。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件) 備考 (2件)
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