研究課題/領域番号 |
15K08658
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
玉置 知子 (橋本知子) 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (10172868)
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研究分担者 |
吉川 良恵 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (10566673)
中野 芳朗 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (30360267)
小山 英則 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (80301852)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 悪性中皮腫 / ゲノム不安定性 / BAP1遺伝子 / MTAP遺伝子 / 腎細胞がん |
研究実績の概要 |
悪性中皮腫(MM)ゲノムで、3p領域を解析した。我々は、MM腫瘍で3pに存在するBAP1等の複数の遺伝子の欠損、点変異等が生じており、その患者の生殖細胞系列ではその領域の機能障害性のrare variantを見いだしていた。一方で、成人の腎細胞がん(RCC)でも3p末端のVHL遺伝子に加え、BAP1変異が報告されているが、RCCは比較的予後がよい。悪性度が高いMMとRCCのゲノム比較でMMの悪性度の原因を探ることとした。RCCでは、ほぼ全例に3pの1アレルの欠損が見られ、残存する1アレルはintactであったが、MMでは3p全体で両アレルに小領域の欠損や、複数の遺伝子に塩基配列レベルの変異が生じていた。このような不安定性は、全ゲノム中でも特に3pに特異的であり、MMの細胞株ごとにも欠損部位の違いがあった。この不安定性を作る要因が判明すれば、MMゲノムの特性がさらに明かになると期待される。 さらに我々は、MMでは9pのCDKN2Aの欠損頻度が高いことを見出した。この欠損は、CDKN2A、2Bに限定される短い欠損の場合と、近傍に位置するMethylthioadenosine phosphorylase(MTAP)遺伝子が併せて欠損している場合がある。MTAPは、adenineのリサイクルに関わる。MethotrexateはMTAPが正常か欠損かにかかわらず細胞毒性を示すが、methylthioadenosineを添加するとMTAP欠損細胞が選択的に死滅し正常細胞は生存すると報告されている。よってまず、ゲノムデータからMTAP欠損MM株と非欠損MM株でMTX感受性を調べたが、どちらもMTXに抵抗性で、この経路を利用するためには再検討が必要となった。CDKN2A欠損やBAP1不活化についても薬剤との関係は知られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MMゲノムの特徴を見直しし、同じ3p領域が関係するRCCと比較してもゲノムの不安定性が特徴であることが明らかにできた点では、順調な進展であった。 しかし、遺伝子欠損の有無で効果が異なると報告されている薬剤の効果を検証する第一段階で、遺伝子欠損の有無にかかわらず細胞障害性が見られる条件を用いて実験を行った。その結果、MM細胞ではこの薬剤が細胞障害性をほとんど示さないことが判明し、よってこの計画を初期の通りに進めることができず、見直しが必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
ゲノムの特徴の解析を継続し、代謝やDNA不安定性に関する遺伝子の関与がないかを検討し、薬剤等のターゲットとなるポイントを見つける。ゲノム不安定性がMMの特徴と考えられることから、ゲノム不安定性にかかわる遺伝子群(p53、ATM等)の発現を調べる。やはり悪性度が高く進展が早い卵巣がんの腹腔播種については、低酸素濃度耐性の獲得が注目されていることから、MMも胸腔播種についての同様の検討が必要である。 ゲノム不安定性が少ないMMも少数見いだされているため、臨床症状、germlineの差を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲノム変異に基づいて、薬剤感受性を予測して細胞培養実験を行ったが、実際には薬剤がほとんど効果を示さなかった。この培養実験を進める予定で使用計画をたてたが、このように実験結果が異なったため細胞培養実験計画を一時ストップさせる必要が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度に成果がでている、MMゲノムの不安定性の特徴をさらに明らかにし、薬剤のターゲットとなる変化がないかどうかを検討するために使用する。
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