研究課題/領域番号 |
15K08665
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山本 純偉 筑波大学, 医学医療系, 講師 (50402376)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 扁桃体中心核 / 扁桃体外側基底核 / プレガバリン / 痛み / ホルマリン |
研究実績の概要 |
痛みやストレスなど有害事象は負情動を形成し、内分泌変化、自律機能変化や気分の変調などの情動応答を引き起こす。負情動の形成に扁桃体中心核の可塑性が重要な役割を果たしていることが分かってきた。今回、ホルマリン足底注入モデル(亜急性炎症疼痛モデル)マウスを用いて、扁桃体中心核と痛みの関係について2つの成果を得た。 成果1.扁桃体中心核を構成するニューロンのほとんどはGABA作動性抑制性神経であるが、抑制性神経回路が疼痛によりどのように変化するのか分かっていない。ホルマリン足底注入により、侵害刺激が扁桃体中心核内側亜核への抑制性入力を増強させることを明らかにした。さらに、この増強作用は時間の経過とともに減弱するが、ノルアドレナリンの投与による抑制性入力増加作用は時間の経過とともに増強することが分かった。このことから侵害刺激により扁桃体中心核内に可塑性の変化が生じたことが考えられる。この機序は痛みによる負情動の形成に重要である可能性がある。 成果2.神経障害性疼痛の治療に用いられるプレガバリンは、GABA作動薬として開発されたがその鎮痛のメカニズムはα2-d auxiliary subunit of voltage-gated calcium channelsへの結合とそれによる神経伝達物質の遊離抑制であることが分かってきた。プレガバリンの結合するAlpha2-delta-subtype 1が扁桃体に多く発現していることから、その鎮痛作用に扁桃体が関与していると考え、扁桃体基底外側部から扁桃体外側外包部への興奮性入力がプレガバリンでどのように変化するかを調べた。プレガバリンはホルマリン足底注入モデルマウスでは興奮性を抑制し、その抑制作用には遊離抑制作用が関与していることを明らかにした。しかし、未処置のマウスでは抑制しなかった。このことはプレガバリンの作用は炎症がある場合のみに限られることを意味する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、疼痛モデルマウスを用い、疼痛による扁桃体中心核内側亜核抑制性神経伝達の入力変化の解析することを予定していたが、ホルマリン足底注入モデルマウスを用い侵害刺激により扁桃体中心核内側亜核への抑制性入力が増強することを明らかにすることができた。さらに、その増強作用は時間の経過とともに減弱するにも関わらず、ストレスホルモンの1つであるノルアドレナリンを投与した場合の反応は減弱するどころか増強していることを明らかにした。このことは侵害刺激により扁桃体中心核内に可塑性の変化が生じたことを示唆し、慢性痛のメカニズムや治療法を考える上で重要な成果であると考えられる。 当初の予定では亜急性炎症疼痛モデルとしてのホルマリン足底注入モデルとともに、慢性神経障害性疼痛モデルとして脊髄神経結紮モデルでも同様の実験を行う予定であったが、予定していなかったプレガバリンを用いた研究を行い、興味深い結果が得られたことから、そちらの実験を継続して行った。 プレガバリンは慢性疼痛の治療用いられる。プレガバリンが結合するα2-δ-1voltage-gated calcium channelsは扁桃体を含む下行抑制系に関連する部位に多く発現していることから、その鎮痛作用に扁桃体の関与が示唆されている。実際、すでにホルマリン足底注入モデルを用いた行動実験では、ホルマリンによる2相性の疼痛関連行動のうち、中枢性感作が関与する第2相を抑制することが報告されている。今回の実験により、スライスパッチクランプ法を用いることで神経細胞レベルで、プレガバリンが扁桃体基底外側部から扁桃体外側外包部への興奮性入力を抑制すること。さらに、プレガバリンの抑制作用は炎症により興奮性の高まった場合にのみ作用することが明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
過去の報告により、ホルマリン注射によって外側腕傍核から扁桃体外側外包部への興奮性入力が増強することが既に明らかになっている。ホルマリン注射によって扁桃体基底外側部から扁桃体外側外包部への興奮性入力が増強しているのかどうかを刺激強度をふって調べる。 昨年度の研究によりプレガバリンがホルマリン足底注入モデルにおいて扁桃体基底外側部から扁桃体外側外包部への興奮性入力を抑制することが明らかにしたが、外側腕傍核から扁桃体外側外包部への興奮性入力増強に対しプレガバリンがどのように作用するのかを調べた研究はないことから、外側腕傍核から扁桃体外側外包部への興奮性入力と扁桃体基底外側部から扁桃体外側外包部への興奮性入力を同じスライスを用い、ダブル刺激をすることで明らかにする。 今回の研究でホルマリン足底注入により、侵害刺激が扁桃体中心核内側亜核への抑制性入力を増強させること、扁桃体中心核内に可塑性の変化が生じさせることを明らかにしたが、この増強作用、可塑的変化がプレガバリンの投与により抑制することができるかどうかを調べる予定である。また、可塑的変化に細胞内Cl-濃度の変化とそれに伴うGABAの興奮性が関与しているのかどうかを電気生理学的方法を用いて明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外の学会で発表予定であったが、発表しなかったため、その分の旅費がかからなかった。また、今後、光遺伝学を用いた研究を行うための準備を始める予定でその費用を計上していたが、準備に至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年、7月に海外の学会で昨年度の成果を発表する予定である。また、実験室で自分が使用している電気生理学のセットで光遺伝学を用いた実験ができるように整備する予定であある。
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