研究課題/領域番号 |
15K08668
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
堀 紀代美 金沢大学, 医学系, 助教 (40595443)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 末梢動脈疾患 / PAD / 虚血性疼痛 / NGF / VEGF |
研究実績の概要 |
【目的】末梢動脈疾患(PAD)で見られる虚血性疼痛のメカニズムを明らかにするため、本年度はPADモデルラットの虚血性疼痛における成長因子NGF、VEGFの関与について調べるために行動薬理学的解析、タンパクの検出、免疫組織学的を行う。 【方法】全身麻酔下でラットの総腸骨動脈および腸腰動脈を結紮することにより下肢の血流を阻害したPADモデルラットを作成し、ランダルセリット装置を用いて筋の機械的痛覚過敏を、トレッドミルを用いて間歇性跛行の有無を調べた。痛覚が亢進したPADモデルラットにNGF 受容体TrkAの拮抗薬(K252a)およびVEGF の受容体VEGFR2の拮抗薬(PTK787)を投与して、疼痛行動の変化を行動薬理学的に調べた。また、筋の痛覚過敏が引き起こされたPADラットの腓腹筋を採取して筋のNGFタンパク量をELISA法およびウエスタンブロッティングにて測定した。さらに、NGFの受容体TrkAおよびVEGFの受容体VEGFR2の後根神経節の腓腹筋の知覚ニューロンにおける発現を調べた。 【結果】成長因子NGFの受容体TrkAの拮抗薬はPADモデルラットの間歇性跛行には効果がなかったが、筋の痛覚過敏を抑制した。さらに、筋の痛覚過敏が認められるモデルラットの腓腹筋において、NGFのタンパク量が増加した。VEGFの受容体VEGFR2の拮抗薬(PTK787)による行動薬理学的検討および腓腹筋内VEGF量の測定については今進行中である。また、NGFの受容体TrkAおよびVEGFの受容体VEGFR2の後根神経節の腓腹筋の知覚ニューロンにおける免疫染色も現在進行中である。 【考察】本年度の成果により、PADラットの下肢の血流阻害による筋の痛覚過敏には、筋のNGFの発現増加によって引き起こされた1次知覚神経の興奮性の亢進が関与すると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの成果により開発した慢性的な筋の痛覚過敏と間歇性跛行および冷痛覚過敏を呈するPADモデルラットを用いて、成長因子NGF およびVEGFの行動薬理学的検討について検討をした。そして、NGFについては新たな知見を得ることができた。VEGFの行動薬理学的検討については今進行中であるため結果を得られていないが、引き続き検討を実施していく。 NGFとVEGFのタンパク量の定量にはこれまでのELISA法のみでなく、本助成で購入した機材を用いてウエスタンブロッティングも併用した。これにより更に精度の高い解析が可能となった。現在VEGFのタンパク量の測定を進めている。VEGFタンパク量についてはVEGFのスプライシングバリアントである2種の異性体それぞれのタンパク量の測定にも着手している。 H28年度に重点的に行うことを計画していた成長因子VEGF受容体VEGFR2およびNGF受容体TrkAの発現の免疫組織学的検討については今進行中であるため結果を得られていないが、引き続き検討を実施していく。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度はPAD モデルラットの痛覚の変化に関与する分子メカニズムを明らかにすることを目的に成長因子の関与について引き続き行動薬理学的評価、成長因子のタンパク量のアッセイ、および知覚神経の免疫組織学的評価を実施する。 成長因子の行動薬理学的評価については、進行中の成長因子のVEGF 受容体VEGFR2の拮抗薬を使用した解析を進める。またELISA法およびウエスタンブロットにてVEGFのタンパク量の測定を進める。 知覚神経の免疫組織学的評価については、動脈結紮によって痛覚が亢進したラットの後根神経節(DRG)において、免疫組織化学的にVEGF受容体VEGFR2およびNGF受容体TrkAの発現を検索する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に購入予定であった吸光グレーティングマイクロプレートリーダーが低予算で済ませられたため、27、28年度でウエスタンブロッティングの装置や試薬を購入し、タンパクの解析を進めることができた。このように繰り越した予算の大部分を有用に用いたが、まだ僅かに繰越予算を生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は免疫染色に使用する抗体薬剤の購入が中心となる。栄養因子のVEGF 受容体VEGFR2の1次および2次抗体を購入してその発現に関する解析を加える予定である。さらにVEGFのスプライスバリアントVEGF165bの解析を進めるため、ELISAキットや1次抗体を購入する。 また平成29年度にはこれまでに得られた研究成果を広く社会に発表・報告するための国内外の関連学会への参加のための旅費の使用も予定している。
|