【目的】末梢動脈疾患(PAD)で見られる虚血性疼痛のメカニズムを明らかにするため、本年度はPADモデルラットの虚血性疼痛における成長因子NGF、VEGFの関与について調べるために行動薬理学的解析、タンパクの検出、免疫組織学的を行う。 【方法】全身麻酔下でラットの総腸骨動脈および腸腰動脈を結紮することにより下肢の血流を阻害したPADモデルラットを作成し、ランダルセリット装置を用いて筋の機械的痛覚過敏を、トレッドミルを用いて間歇性跛行の有無を調べた。また、筋の痛覚過敏が引き起こされたPADラットの腓腹筋を採取して筋のVEGFのバリアントフォームVEGF165bのタンパク量をELISA法およびウエスタンブロッティングにて測定した。痛覚が亢進したPADモデルラットにNGF の中和抗体を投与して、疼痛行動の変化を行動薬理学的に調べた。また、イオンチャンネルASIC3の発現増加におけるNGFの関与を調べるため、NGF中和抗体を動脈結紮処置後から14日まで1日1回連続投与し、ASIC3の後根神経節の腓腹筋の知覚ニューロンにおける発現を調べた。さらにVEGFの受容体VEGFR2の後根神経節の腓腹筋の知覚ニューロンにおける発現も調べた。 【結果】NGFの中和抗体の単回投与はPADモデルラットの間歇性跛行には効果がなかったが、筋の痛覚過敏を抑制した。VEGF165bのタンパク量は増加した。また、NGFの中和抗体の14日間にわたる連続投与は腓腹筋の知覚ニューロンにおけるASIC3の発現増加を抑制した。さらに、腓腹筋の知覚ニューロンにおけるVEGFR2の発現は増加した。 【考察】本年度の成果により、PADラットの下肢の血流阻害による筋の痛覚過敏には、筋のNGFを介したASIC3の発現増加およびVEGFR2受容体の活性化によって引き起こされた1次知覚神経の興奮性の亢進が関与すると考えられた。
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