ランニングホイールと隠れ家のあるイグルー設置したケージをエンリッチ環境として、マウスの恐怖記憶の保持能を解析した。イグルーのあるエンリッチ群とイグルーのない対照群の間に、恐怖記憶の保持能に差が認められなかったので、自発運動との関連を解析した。
1.ランニングホイールによる自発運動の解析 恐怖記憶忘却度に対する忘却度と運動量には相関があるかを確認するために、ランニングホイールに簡易的カウンターを設置し、マウスを1匹ずつ単独飼育して、ランニングホイールの回転回数を解析した。マウスは夜行性動物であるので、エンリッチ群の夜間(消灯時、20時-8時)の回転回数は対照群と比較して多いと予想したが、統計学的有意差は認められなかった。エンリッチ群の運動量は点灯時(8時-20時)に亢進していて、日中の回転回数は、対照群と比較して有意に多かった。回転回数の個体差も大きいが、日中の回転回数多い固体ほど、記憶の保持度が大きい傾向があった。
2.ハンギングワイヤー試験よる自発運動の解析 マウスの運動学習能を測定する試験として、ハンギングワイヤー試験がある。マウスを金網の上に乗せ、その金網をひっくり返して、マウスが金網から落下するまでの潜時を測定する。エンリッチ群の潜時のほうが対照群の潜時よりも長いと予想したが、予想外にエンリッチ群の潜時は顕著に短かった。ランニングホイールを入れていない対照群は、自発運動が制限されているわけではないので、頻繁にケージの金網につる下がるという行動が観察されるが、エンリッチ群ではほとんどつる下がり行動はみとめられない。ランニングホイールは快楽的で報酬系が活性化するという報告もある。ケージで飼育されている実験用マウスの運動は野生のマウスに比べると運動は制限されてはいるが、運動量の指標はランニングホイールの回転回数だけでは十分でないことが示唆された。
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