研究課題/領域番号 |
15K08672
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
由利 和也 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 教授 (10220534)
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研究分担者 |
大迫 洋治 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 准教授 (40335922)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 痛み / 社会的修飾 |
研究実績の概要 |
1.雌雄間で強い絆を形成するげっ歯類において、絆形成後にパートナーと同居を維持した群(維持群)と別離させた群(ロス群)に分けて、不安レベル、皮膚熱刺激に対する逃避反射の閾値および炎症誘発時の疼痛関連行動を解析すると、維持群とロス群間で有意差が検出された。また、不安レベルと皮膚熱刺激に対する逃避反射閾値には負の相関が検出された。絆を形成しなかったペアとの多群比較により、パートナーの存在により不安レベルが減少し、パートナーロスにより痛み行動が増悪することが明らかになった。これらのことから、パートナーと強い絆を形成するげっ歯類において、パートナーの存在により不安と痛み行動が修飾されることが明らかになった。身体的要因が全く関与しない心理的要因のみに依存する痛みの社会的修飾モデルを確立した。 2.痛みの社会的修飾作用の脳内メカニズムを探索する目的で、1のモデルにおける脊髄および疼痛関連脳領域の痛み刺激への反応性を解析した。最初期遺伝子fosのタンパク発現を指標に炎症性疼痛誘発時における神経活性度をロス群と維持群で比較した結果、脊髄後角の浅層(I-II層)と深層(IV-VI層)ともに維持群に比べてロス群でFos発現量が有意に多く、疼痛関連脳領域においては、内側前頭前野と側坐核(核部、殻部とも)でロス群に比べて維持群で有意にFos発現量が多かった。脊髄後角は末梢からの痛み刺激が最初に入力する部位であり、脊髄後角において維持群よりロス群で活性度が高いことは、1の行動結果を支持するものである。また、内側前頭前野と側坐核は中脳皮質辺縁系ドパミン回路の構成領域であり、近年、内因性疼痛抑制系として機能することが注目されている。維持群の方がロス群に比べて、これらの領域が痛み刺激に対して強く活性化していたことから、パートナーによる痛みの修飾に中脳皮質辺縁系ドパミン回路が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
雌雄間で強い絆を形成するげっ歯類の痛み行動が、パートナーの存在により修飾されることを行動学的にとらえることに成功した。この現象は、一夫一婦制を営まないマウス・ラットでは実現困難であり、身体的要因が全く関与しない心理的要因のみに由来する点、情動行動の変化を伴う点で、痛みの社会的修飾メカニズムを解明するよい動物モデルとなる。痛みの社会的修飾作用の脳内メカニズムを探索すべく、脊髄やペインマトリックスにおける活性領域マッピングもほぼ計画通りに実施でき、中脳皮質辺縁系ドパミン回路がこの現象に関与している可能性が示唆された。当初の計画のうち、視床下部のオキシトシン・バゾプレッシンニューロンの活性度解析が未完了であるが、この解析については、免疫染色も終了し顕微鏡写真も撮影済みであり、近日中に終了できる。
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今後の研究の推進方策 |
今回の解析で神経活性差が検出された前頭前野と側坐核は中脳皮質辺縁系ドパミン回路の一部であり、この回路が延髄の下行性疼痛抑制系を介して内因性疼痛抑制系として機能することが近年注目されている。今年度において、延髄の下行性疼痛抑制系の痛み刺激に対する活性度もFosタンパクの発現を指標として解析を試みたが、維持群とロス群間で発現に有意差は検出されなかった。しかしながら、下行性疼痛抑制系を構成するセロトニンおよびノルアドレナリンニューロンの各マーカーとFos抗体の二重免疫組織化学染色において、各ニューロンともFosタンパクを発現していた割合はトータルニューロン数の1-2%であったことから、Fosタンパクよりもっと発現量の多いタンパクを指標に解析すると差を検出できる可能性がある。痛み刺激により下行性疼痛抑制系セロトニンおよびノルアドレナリンニューロンの30%がリン酸化ERKを発現し、さらにこの発現量が身体拘束ストレスにより変化するとの報告があるので、本研究の心理ストレスモデルにおいても同様に変化する可能性が高い。したがって、痛み刺激による下行性疼痛抑制系の活性度を、リン酸化ERKを指標に再解析を試みる。手技・方法はFosタンパクの解析時と同じなので直ちに実施可能である。その他は当初の計画通りに実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に用いる動物の自家繁殖匹数が予定より少なかったため、飼育代が予算額より下回った。参加予定であった学会に都合がつかなく参加できなかったため、その旅費を次年度へ繰り越した。成果が論文投稿まで至らず、英文校正費および掲載料を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度繰り越した費用の一部は、当初計画していなかった別の抗体の購入費に充てる。さらに、実験動物用のケージが、オートクレーブ滅菌の繰り返しにより一部破損しているものがあるので、新規ケージの購入費に充てる。
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