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2015 年度 実施状況報告書

運動療法による疼痛緩和のメカニズム:エピジェネティクス修飾の網羅的解析

研究課題

研究課題/領域番号 15K08677
研究機関和歌山県立医科大学

研究代表者

仙波 恵美子  和歌山県立医科大学, 医学部, 名誉教授 (00135691)

研究分担者 上 勝也  和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (20204612)
成田 年  星薬科大学, 薬学部, 教授 (40318613)
研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワード神経障害性疼痛 / 運動療法 / エピジェネティクス / GABA / 脳報酬系 / 腹側被蓋野 / ドーパミン
研究実績の概要

痛みの慢性化に脳の情動回路が大きな影響を与えることはよく知られているが、その基盤にある分子メカニズムは不明である。痛みを回避しようとすると、痛みに対する恐怖心は維持され、次第に増強していく。その結果身体への注意集中や過度のとらわれが形成され、これを痛みの破局化という。このような、痛みの破局的思考に陥らないためには、出来るだけ初期から様々な介入、例えば運動療法、認知行動療法などを行い、患者のライフスタイルを変える取り組みが有効とされている。運動療法は薬物に拠らない疼痛緩和の方法として確立されつつあるが、そのメカニズムは不明である。我々は神経障害性疼痛のモデルとして坐骨神経を部分的に結紮したPSLマウスを用いてトレッドミルによる強制運動や、回転盤による自発運動を行うことにより、アロディニアや熱痛覚過敏が抑制されること(Exercise-induced hyoalgesia)を明らかにし、そのメカニズムとして脊髄後角のミクログリアにおけるHDAC1の減少によるH3K9アセチル化の増加や、脊髄後角におけるGABAによる抑制の維持が関与することを実験的に証明した。さらに、上は強制誘導よりも回転盤を回す自発運動の方が、より効果的にEIHを起こすことを明らかにした。また研究分担者の成田は、EIHに脳報酬系が重要な役割を果たしていることをoptogeneticsにより明らかにし、さらにマイクロアレイにより側坐核における遺伝子発現を網羅的に解析したところ、PSLにより変動した遺伝子群が運動により正常化することを明らかにした。研究代表者の仙波と分担者の上は、これらの結果を踏まえて脳報酬系に着目し、PSLが腹側被蓋野(VTA)のドーパミン(DA)ニューロンの興奮性を抑えるが、運動がそれを活性化させることおよびその神経メカニズムについて検討を開始した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初、中枢神経の各領域、すなわち脊髄後角(L4/5)・RVM・側坐核・扁桃体を取り出し、PSLおよび運動負荷により反対方向に発現変動する遺伝子およびmicroRNAをマイクロアレイにより網羅的に解析する、としていたが、ヒトや動物の根源的な行動の発現に関与する脳報酬系に焦点を絞って検討を加えることにした。多くの脳領域を対象にするには研究費と労力がかかり過ぎるが、対象領域を一つに絞ることにより、より深く詳細に検討を行うことが可能となり、結果的に当初の目的を研究期間内に達成できると考えたからである。研究分担者の成田は光遺伝学的手法およびマイクロアレイによる解析を担当し、仙波および上は、VTAにおけるDAニューロン、GABAニューロンの興奮を細胞レベルで捉え、またその入力系について実験形態学的に検討を行っており、おおむね順調に進展している。

今後の研究の推進方策

運動療法は慢性痛に対し、低コストで安全で効果的な治療法である。同時に、QOLを高め、うつやその他心理学的な面での改善も期待できることから、慢性痛の治療に積極的にとり入れられることが望ましい。そのためにはEIHの神経メカニズムの解明が重要である。今後、運動療法の効果における脳報酬系の関与についてトレーサー法と免疫二重染色を用いた実験形態学的手法により解明を進める予定である。神経興奮のマーカーとして⊿FosBあるいはFosなどのIEG発現を用いることにより、運動の種類や強度によるVTAの興奮の度合いを定量化することも可能となる。入力系の候補である脚橋被蓋核(PPTg)と運動および痛みとの関係についても明らかにすることができ、脳幹の神経核の機能解明にも貢献できる。

次年度使用額が生じた理由

当初、中枢神経の各領域、すなわち脊髄後角(L4/5)・RVM・側坐核・扁桃体を取り出し、PSLおよび運動負荷により反対方向に発現変動する遺伝子およびmicroRNAをマイクロアレイにより網羅的に解析する、としていたが、解析費用と労力(マウスの数が膨大になるため)の点で遂行は困難となることが予想されたため、検討の対象を脳報酬系(VTA, 側坐核)に絞り、研究手法も実験形態学(トレーサー法と免疫組織化学)に切り替えたため、次年度使用額が生じた。なお、研究分担者の成田は、PSLおよび運動負荷後の側坐核におけるマイクロアレイをすでに実施している。この変更は、運動療法による疼痛緩和のメカニズムを明らかにするという当初の目的に沿うものである。

次年度使用額の使用計画

上記の実験形態学的研究の遂行に不可欠なクライオスタットはこれまで共同利用のものを使用していたが、他の研究費と合わせて新規に購入する予定である(合算使用)。残りの研究費は、実験用動物、トレーサー(蛍光標識Cholera Toxin B subunit)、各種抗体などの購入に充てる。トレーサー注入に必要な脳定位固定装置、空気圧注入装置(pico pump)については、研究室内の備品を用いる。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2015

すべて 雑誌論文 (6件) (うちオープンアクセス 5件、 査読あり 4件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 3件)

  • [雑誌論文] A key to dissect the triad of insomnia, chronic pain, and depression.2015

    • 著者名/発表者名
      Senba E.
    • 雑誌名

      Neuroscience Letters

      巻: 589: ページ: 197-199

    • DOI

      doi: 10.1016/j.neulet.2015.01.012.

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 脊髄後角GABA作動性ニューロンは運動による疼痛の緩2015

    • 著者名/発表者名
      上 勝也, 田口 聖, 田島文博, 仙波恵美子
    • 雑誌名

      日本運動器疼痛学会誌

      巻: 第7巻1号 ページ: 15-26

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 走運動による損傷坐骨神経でのM2マクロファージの増加は神経障害性疼痛の緩和に関与する2015

    • 著者名/発表者名
      田口 聖, 上 勝也, 田島文博, 仙波恵美子
    • 雑誌名

      Pain Research(日本疼痛学会誌)

      巻: 30巻3号 ページ: 135-147

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 神経障害性疼痛モデルマウスのExercise-induced hypoalgesiaに対する強制運動と自発運動の効果とそのメカニズム2015

    • 著者名/発表者名
      上 勝也, 田口 聖, 田島文博, 仙波恵美子
    • 雑誌名

      Pain Research(日本疼痛学会誌)

      巻: 30巻第4号 ページ: 216-229

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 感覚の基礎知識「痒み」2015

    • 著者名/発表者名
      仙波恵美子
    • 雑誌名

      Clinical Neurosciencevol. 33 no. 5(―5)P.

      巻: 33(5) ページ: 535-538

  • [雑誌論文] Epigenetic mechanisms of chronic pain.2015

    • 著者名/発表者名
      Descalzi G, Ikegami D, Ushijima T, Nestler EJ, Zachariou V, Narita M.
    • 雑誌名

      Trends Neurosci.

      巻: 38(4) ページ: 237-246

    • DOI

      10.1016/j.tins.2015.02.001.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 神経障害性疼痛モデルマウスのExercise-induced hypoalgesiaにおける強制運動と自発運動の効果の比較2015

    • 著者名/発表者名
      上勝也, 田口聖, 仙波恵美子
    • 学会等名
      平成27年度生理学研究所研究会
    • 発表場所
      岡崎市
    • 年月日
      2015-12-17 – 2015-12-18
  • [学会発表] 陽性情動・陰性情動と痛み---脳報酬系の役割--2015

    • 著者名/発表者名
      仙波恵美子,上勝也,成田年
    • 学会等名
      第8回日本運動器疼痛学会,シンポジウム
    • 発表場所
      名古屋市
    • 年月日
      2015-12-12 – 2015-12-13
    • 招待講演
  • [学会発表] 自発運動は神経障害性疼痛モデルマウスの疼痛を緩和する2015

    • 著者名/発表者名
      上 勝也, 仙波恵美子
    • 学会等名
      第16回ORIGIN神経科学研究会
    • 発表場所
      下関市
    • 年月日
      2015-08-28 – 2015-08-29
  • [学会発表] The impact of voluntary wheel running on neuropathic pain model mice—Contribution of GAD65 in superficial dorsal horn to exercise-induced hypoalgesia--2015

    • 著者名/発表者名
      Kami K, Taguchi S, Senba E
    • 学会等名
      第38回日本神経科学大会
    • 発表場所
      神戸市
    • 年月日
      2015-07-28 – 2015-07-31
  • [学会発表] 神経障害性疼痛マウスに対する自発的走運動の影響2015

    • 著者名/発表者名
      上 勝也, 田口 聖, 田島文博, 仙波恵美子
    • 学会等名
      第37回日本疼痛学会
    • 発表場所
      熊本市
    • 年月日
      2015-07-03 – 2015-07-04
  • [学会発表] トレッドミル運動による神経障害性疼痛の除痛機序におけるドパミン神経と側坐核の役割2015

    • 著者名/発表者名
      若泉謙太, 山下哲, 濱田祐輔, 渡邉萌, 川辺塁, 近藤貴茂, 池上大悟, 葛巻直子, 成田道子, 森崎浩, 仙波恵美子, 五十嵐勝秀, 成田年
    • 学会等名
      第37回日本疼痛学会 2015年7月3~4日
    • 発表場所
      熊本市
    • 年月日
      2015-07-03 – 2015-07-04
  • [学会発表] 線維筋痛症の痛みはどうして起こるか2015

    • 著者名/発表者名
      仙波恵美子、上勝也
    • 学会等名
      第56回日本心身医学会学術講演会,シンポジウム
    • 発表場所
      東京都
    • 年月日
      2015-06-26 – 2015-06-27
    • 招待講演
  • [学会発表] 運動による疼痛緩和のメカニズム--エピジェネティクス修飾およびGABAニューロンの関与について2015

    • 著者名/発表者名
      仙波恵美子
    • 学会等名
      第9回阪大疼痛医療センター学術セミナー
    • 発表場所
      吹田市
    • 年月日
      2015-05-18
    • 招待講演

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公開日: 2017-01-06  

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