炭素線治療で用いられる生物線量を予測するMK(microdosimetric kinetic)モデルを改良し、より汎用性をもたせた。具体的にはMKモデルの仮定のみを採用して、後はモンテカルロ法を利用することで、様々な粒子種、照射方法でも生物線量を見積もることができる。これにより内用療法のように持続的な照射や薬剤の動態も考慮することができる。MKモデルは二種類の損傷を考え、その損傷数の時間発展のモデル化により任意時間での生存率を見積もることができる。本研究では損傷の発生や時間発展のモデルに自由度を与え、今後の放射線生物学の知見等により容易にモデルが修正可能なことが特徴である。 生物線量を得るには、細胞照射実験を行いコロニーアッセイ法で生存率を測定する必要がある。本研究でも従来法で測定し、さらにコロニーを画像で取得し、自動的にコロニー数と大きさを計測するシステムを構築し、これまでは計測されなかったコロニーの大きさの分布も取得した。その結果、炭素線のSOBP照射においては、SOBPの中でも大きさの分布に違いが見られたが統計量が少ないため有意な差とはいえない。これはLETの違いにより、細胞の増殖の仕方に違いがあることを示唆しているかもしれない。 また生存率の測定には、その測定条件である物理的特性を明確にするのが望ましい。シミュレーションでそれを提供することにし、今年度は炭素線の飛程より後方に飛び出す二次粒子の角度分布を測定し、シミュレーションと比較した。その結果、シミュレーションは10%程度過小評価していることが分かり、飛程後方の生存率予測には注意が必要である。 またDNAレベルでの放射線損傷研究のためにプラスミドDNAを炭素線で照射し、原子間力顕微鏡で損傷の観測を試みたが、照射量が足りず二重鎖切断数は少なく、切断された長さや数を統計的に解析することができなかった。
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