研究課題/領域番号 |
15K08697
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
島崎 達也 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 助教 (60264248)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | ESR低線量被ばく線量測定法 / 電子スピン共鳴法 / 歯エナメル / 甲状腺被ばく線量 / 福島原発事故 / 長崎原爆被ばく線量 / 遠距離被ばく |
研究実績の概要 |
本研究課題は、個人被ばく線量を唯一実測可能な測定法として、人体の一部である歯エナメル、衣服などの貝ボタンおよび貝製品などを測定素子として用いる電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)被ばく線量測定法を低線量領域でも適用可能な測定技術へと向上を図り、緊急被ばく時における被ばく線量評価法として確立することを目的に進める。福島県および周辺地域及び熊本県(対照地域)で歯エナメル、衣服の貝ボタン及び環境中の貝や貝製品を収集し、福島原発事故による被ばく線量や医療被ばくなどにより受けた個人被ばく線量の推定に関する基礎研究を行った。 本年度は、前年度に得られた研究成果を基にESR被ばく線量測定法の基礎データを収集する目的で研究を継続した。研究に用いたESR試料は、これまで提供を受けた抜歯試料に加え長崎大学との共同研究で提供を受けた長崎原爆被爆者の抜歯試料、福島第一原発周辺の貝、市販の貝製品を用いた。研究内容は、1)乳歯における歯エナメルへの象牙質(有機物を多く含む)混入を下げる分離技術の確立と、2)測定により得た歯エナメルESR信号を有機ラジカル成分と線量応答のある(CO2-)成分に分離する方法の開発、3)低線量被ばくで問題となる歯エナメルに記録された自然放射線や医療放射線の被ばく線量推定について研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ESR被ばく線量測定法の低線量領域での測定技術の確立のために計画した歯エナメル質や貝試料の測定により得た基礎データは十分に収集することができた。本研究課題の遂行において、平成28年4月に発生した熊本地震によりESR装置が被害を受け年度末まで使用できなくなったことは、研究遂行に大きな支障となった。ただし、最新のESR装置を導入することができたことにより測定条件の初期設定などに多くに時間を費やすことになったが、得られるESR信号強度が格段に向上した。乳歯に関するエナメルの剥離技術の確立は遅れが生じているが、測定試料への象牙質の混入を最小限にする精密切断機の利用によりエナメル質の損失を最小限に抑えることが可能となった。引き続き測定試料への象牙質混入によるESR信号への影響を検討する。化学試薬による有機物の除去を試みたが、ESR信号の改善には至らなかった。医療放射線の影響は、歯の頬側エナメル質から得られたESR信号と舌側エナメル質から得られたESR信号を比較した結果、一部の例外を除いて頬側のエナメル質から得られたESR信号が比較的大きい傾向を示し、その医療放射線の寄与を0.04~0.60Gy程度と推定した。福島県、熊本県での歯、貝ボタン、貝製品などの収集に関しては、4回の福島出張を行い被ばく状況の現状把握と環境試料などの収集を実施した。また、長崎大学との共同研究で長崎市、福島県川内村を研究拠点とした活動を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27-28年度に得られた研究成果を基にして、ESR被ばく線量測定法の検出感度の向上と安定性を目指す研究を推進する。ESR測定試料として用いる歯エナメル、衣服の貝ボタン及び環境中の貝などを福島県及びその周辺地域、熊本県で収集を継続する。得られた基礎データを基にESR低線量被ばく測定法を発展させ、収集したESR試料の測定に適用し、低線量領域の個人被ばく線量の推定を行う。 1.ESR測定試料として用いる歯エナメル(乳歯、永久歯)、貝ボタン、環境中の貝及び貝製品などを福島県及びその周辺地域、熊本県で収集する。 2.ESR低線量被ばく測定法の開発を目指し、(1)測定試料(歯エナメル)への象牙質の混入によるESR信号への影響評価と乳歯のエナメル質分離方法の確立、(2)歯エナメルESR信号を有機ラジカル成分と線量応答のある(CO2-)成分に分離する方法を開発する。また、(3)頭頸部ブロックファントムを用いた甲状腺から歯エナメルへの線量寄与係数を求める。 3.ESR試料より個人の被ばく線量を求める。 4.長崎大学との共同研究を推進し、提供を受けた長崎原爆被爆者の抜歯試料の被ばく線量を求めるとともに研究成果をデータベース化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
熊本地震の影響により研究施設や研究機器が被害を受け、一時期研究遂行が困難であった。特に使用していた学内設置のESR装置が被害を受けたことや災害復旧への対応ために研究に専念できなかったことが要因となった。また、福島県内での抜歯試料収集のためのネットワーク作りやホームページ開設による広報活動が計画通り進んでいないことも要因である。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、長崎大学との共同研究において長崎市と福島県川内村の研究拠点での活動を開始している。乳歯の収集は難しいと考えるが、住民の理解の下、永久歯の収集を開始する予定である。また、地震の影響により放射線施設が使えなかったために中止にしていた頭頸部ブロックファントムを用いた甲状腺に取り込まれた放射性ヨウ素から歯エナメルへの線量寄与係数を求めるための研究を実施する予定である。さらに海外での国際学会において今までに得られた研究成果の発表を予定している。
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