東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所事故由来の放射性核種の降下により土壌や河川・湖沼 への汚染が問題となり、食品に関する調査報告は多くされてきた。しかし、他の環境要因にお いては未だ手についていないものも少なからずある。その一つとしてカニやエビなどの甲殻類への放射性セシウム移行に関する研究はその一つである。そこで、甲殻類の身近なものとして河口付近に多く生息するモクズガニに注目した。その放射性セシウム汚染濃度を知ることにより評価の難しい生物濃縮の影響を探る手立てとなると考え調査研究を実施した。 その結果、富岡川のモクズガニの甲羅のCs-134濃度は2015年、68.60±3.17 Bq/kg、2016年、38.95±2.50 Bq/kg、2017年、8.5±1.31、Cs-137濃度は2015年、299±3.71 Bq/kg、2016年、232. 24±2.63 Bq/kg、2017年、110.48±3.06 Bq/kg へと変化した。また、採取場所の2017年の河川水の濃度はCs-134およびCs-137濃度は共にN.Dであった。河川水と比較してモクズガニの甲羅に集積した放射性セシウム濃度が高いことが判明した。また、2016年度に開始できた福島第一原子力発電所の北側の最も近距離の河川である前田川のCs-134濃度は、2016年14.41±1.75 Bq/kg、2017年、9.74±2.13 Bq/kg 、Cs-137濃度は2016年222.89±3.31 Bq/kg、2017年、137.53±4.39 Bq/kgで当該河川水の2017年の濃度はCs-134及びCs-137濃度は共にN.Dであった。さらに、2017年に調査が開始できた熊川(福島第一原子力発電所の南側の最も近距離の河川)は、2017年、Cs-134濃度、8.51±1.31 Bq/kg 、Cs-137濃度123.55±3.19 Bq/kgで他の河川と同様に当該河川水の2017年の濃度はCs-134及びCs-137濃度は共にN.Dであった。 これらの調査結果より、河川水中の放射性セシウムは早期に消失するのに対して河川に生息する生物における生物濃縮は長期間に亘ことが判明した。なお、今後とも長期的な調査の必要性が示唆された。
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