研究課題/領域番号 |
15K08701
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
長谷川 智之 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (10276181)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | PET装置 / 校正 / 点状線源 / 定量性 |
研究実績の概要 |
陽電子放出断層撮像法(PET)は、画像診断や分子イメージング研究等において重要な役割を担っている。その有用性はPET装置の物理特性に関わる品質保証・管理(QA・QC)に支えられ、中でも重要なのが定量性評価・校正である。しかし、ファントムやドーズキャリブレータを用いる従来法のみではその信頼性と利便性に限界があった。本研究の目的は、定量性評価・校正の信頼性と利便性を格段に向上させるために、研究代表者らが独自に考案したトレーサブル点状線源を用いる新しい定量性評価・校正法の開発を進めることである。平成28年度、トレーサブル点状線源の開発について、これまで開発を進めてきたアクリル吸収体タイプのGe-68/Ga-68点状線源については、物理特性や関連する不確かさをモンテカルロシミュレーション法により評価した結果等を原著論文原稿として英文学術雑誌へ投稿するに至った。点状線源の改良と製造については、製造業者との調整を進めたが次の試作品の納品は次年度に繰り越しとなった。定量性評価・校正プロトコルの開発と検証においては、ファントムとアクリル吸収体タイプGe-68/Ga-68点状線源を組み合わせることにより校正定数の不確かさと散乱・減弱補正の不確かさを分離して評価する手法について、サイズの異なる専用ファントム一式を用いる手法を考案するに至った。また、アクリル吸収体タイプGe-68/Ga-68点状線源を校正定数決定に用いる手法については、多施設連携により提案手法を検証するため対象PET装置を11機種にまで拡大することができた。一方、Na-22点状線源を用いる校正定数決定法については、臨床用PET/CT装置2機種に対してさらに継続して長期的検証を継続することができた。また、Na-22点状線源をPET装置の物理特性評価に適用する手法については研究成果が原著論文として発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トレーサブル点状線源の開発については、交付申請時の研究実施計画どおり、開発対象をアルミ吸収体Na-22タイプとアクリル吸収体Ge-68/Ga-68タイプに絞り開発を進め、物理特性や不確かさ等の評価結果の一部研究成果を原著論文として学術雑誌に投稿するに至った。ただし、交付申請書の研究実施計画に記したとおり、点状線源の改良と製造については製造業者における製造技術上の開発状況に依存するため次の試作改良品の購入が平成29年度に持ち越しとなり、平成28年度は納品済みの点状線源を有効活用して研究を遂行した。定量性評価・校正プロトコルの開発については、校正定数の決定法、再構成画像における定量性評価法、装置基本的物理特性の評価法、それぞれについて開発を進めることができた。具体的には、アクリル吸収体タイプGe-68/Ga-68トレーサブル点状線源とファントムを組み合わせる手法につては、サイズの異なるファントムとトレーサブル点状線源を組み合わせる手法を考案するに至った。一方、Na-22点状線源を用いる校正法をさらに長期間にわたり臨床用PET/CT装置へ適用し検証を継続できた。また、Na-22点状線源をPET装置の物理特性評価に利用する手法については研究成果が原著論文として発表された。研究実施体制については、対象とするPET装置を11機種にまで拡大することができ、某製造メーカのPET装置2機種についても次年度に対象機種に追加できる見込みであり順調に多施設研究体制を進展させることができた。以上のとおり、当初研究実施計画において想定済みの理由により一部の予算執行が次年度へずれ込んではいるものの全体的には着実に進展しており、また、部分的には当初想定よりも進展している事項もあるため、総合的に評価すると、当初の研究実施計画に対しておおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は3年間の研究計画の最終年度として、昨年度までの研究を継続しながら、(1)トレーサブル点状線源の開発、(2)トレーサブル点状線源を用いる定量性評価・校正法の開発、(3)提案手法を検証する対象PET装置機種拡大と多施設連携共同研究への展開、大きく分けて以上の3項目に関わる研究を推進する。(1)については、アルミ吸収体タイプNa-22点状線源とアクリル吸収体タイプGe-68/Ga-68点状線源に焦点を絞り、モンテカルロシミュレーション法等を用いた物理特性と不確かさ評価、製造業者との連携によるトレーサブル点状線源の改良品製造、納品済みのトレーサブル点状線源の有効活用、トレーサブル点状線源の最適な供給体制の検討他を行う。(2)については、モンテカルロシミュレーション法等を用いた提案手法における不確かさ要因の分析、トレーサブル点状線源を校正定数決定に用いる手法の開発、トレーサブル点状線源をファントムと組み合わせる手法の開発、トレーサブル点状線源を臨床用PET装置に対する日常の品質管理に適用する手法の開発他を着実に進め、臨床・研究の現場におけるPET装置の定量性に関わるQA・QC基盤整備に貢献することを目指す。(3)については、できれば国内で使用されている殆どの臨床用PET装置(PET/CT装置を含む)の機種をカバーするまで対象PET装置を増やし、多施設連携体制に基づき提案手法を開発し検証することを目指す。(1)~(3)に含まれない研究活動についても着実に進展させる。以上に関して関連学会の学術大会や国際会議、さらには英文学術雑誌において研究成果を発表する。以上、基本的には交付申請書の研究実施計画に準じているが、研究の進捗状況や新たな発見に応じて研究計画を柔軟に発展させて研究活動を展開するものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究テーマにおいてはトレーサブル点状線源を用いる定量性評価・校正法における不確かさ評価と信頼性向上のためGe-68/Ga-68タイプの点状線源が重要な役割を担っており提案手法の有効性をさらに多くの施設で検証していくため、平成28年度当初の研究計画ではアクリル吸収体タイプのGe-68/Ga-68点状線源を改良した上で追加購入するための予算を計上していた。しかし、新しい線源開発に協力している製造業者(日本アイソトープ協会)において新たに製造技術上の問題が生じその解決に数ヶ月の時間を要することとなったため平成28年度中の追加購入には至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の使用計画としては、(1)当初研究計画では平成28年度に購入予定であったGe-68/Ga-68点状線源改良品の購入(予算的に可能であれば多施設連携をさらに推し進めるため複数個の点状線源を購入)、(2)平成28年度に試作した専用ファントム改良品の購入、(3)当初研究計画で平成27年度及び28年度に計上していたNa-22点状線源及びMonte Carloシミュレーション用計算機装置については現有機器の有用性を再検討した上で判断、(4)研究代表者と研究協力者(大学院生及び卒業研究生他)の実験や成果発表、(5)その他の消耗品など、(6)研究の進捗状況による新たな展開に必要となる費用、以上に関わる支出を行う予定である。
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