研究課題/領域番号 |
15K08711
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水野 由子 東京大学, 医学部附属病院, 研究員 (80436477)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヘリコバクターピロリ菌 / 齲歯、歯周炎 / 胃・十二指腸病変 |
研究実績の概要 |
Helicobacter pylori(ヘリコバクターピロリ)菌はグラム陰性菌で、胃粘液下の上皮細胞表層に持続感染し、慢性胃炎、胃十二指腸潰瘍、胃癌、胃MALT(Mucosa Associated Lymphoid Tissue)リンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP :Idiopathic thrombocytopenic purpura)の原因となる。感染伝播の経路に関しては未だ不明な点も多く、齲歯、歯周炎がピロリ菌の病原巣として働き除菌治療後の再感染の要因となる可能性が指摘されるが、日本人での検討は十分でない。本研究では当研究施設の検診データを用い、ピロリ感染と齲歯/歯周病の関連について解析するとともに、酸化ストレスがピロリ菌感染と関連病態に及ぼす影響を検証する。研究対象は、基本健診と歯科検診を行った症例群であり、消化管内視鏡検査では胃・十二指腸病変の有無と詳細を、また血清検査ではヘリコバクターピロリ菌IgG抗体値とペプシノゲンI/II比(胃癌リスク判定)を測定し、生活習慣や病歴(既往歴、家族歴)については自記式質問票調査により情報収集した。連続症例68名を対象にした予備検討では、齲歯/歯周病を有する群で慢性胃炎・十二指腸潰瘍の罹患率が低く、また抗ピロリ抗体濃度も低値であった。同様の傾向が、統計学的有意差はないものの齲歯罹患群でも確認され、予備検討では齲歯・歯周病とピロリ感染の関連は示されなかった。その問題点として、解析対象数が少ないこと、口腔内ピロリ感染の有無を直接検証していないことが挙げられる。予備検討の結果を踏まえ、口腔内感染を実験的手法で確認し、症例の背景を整えた対象群での解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備検討の結果を踏まえ、以下進行中である。胃・十二指腸病変や血清抗ピロリ抗体の有無にかかわらず、歯科検診受診者の歯垢と唾液を採取し、ピロリ菌の有無を判定する。手法としては、ピロリ菌のウレアーゼ遺伝子を標的としたリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を施行しDNA断片の増幅の有無を検証する。代替法としてピロリ菌を液体培地で培養する培養法や、鏡検法も適宜用いる。
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今後の研究の推進方策 |
Helicobacter pyloriは1983年に発見され、1997年にはゲノム解析が完了し、本菌がゲノムレベルで多型性に富むことが明らかとなった。多くの型のうち、ピロリ菌が持つ特殊な蛋白質分泌装置(IV型分泌装置)を介して菌体から宿主細胞内に直接注入される「エフェクター分子cytotoxin-associated-A (CagA)」と、細胞に空胞編成を引き起こす「空胞化毒素Vacuolating cytotoxin A (VacA)」を産生する2菌株は、病原性が高く研究が進んでいる。なかでもCagA陽性株の感染が胃癌の発症には重要であり、胃上皮細胞に接触したピロリ菌がIV型分泌装置を用いてCagAを胃上皮細胞内へ注入し、細胞内部のシグナル伝達の撹乱を惹起し、癌化に加担する。既述の如く、細菌性がん蛋白質として胃癌形成に関与するCagAであるが、興味深いことに、動脈硬化など癌以外の病態へも関与する。基礎研究によれば、ピロリ菌は血管内皮機能を障害し、酸化脂質を増加させ動脈硬化を促進する。ヒト研究でも、CagA型ピロリ菌がヒト頸動脈内膜中膜厚比すなわち早期動脈硬化を促進することが判明している。これらの知見を踏まえ、ピロリ菌の亜型菌株に関し生化学的解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
生化学的実験・検体解析に必要な実験環境は既存であるため、研究経費には、実験消耗品(検体検査)、実験補助員の人件費、及び申請者の学会出張等、研究成果を社会に発信する費用を計上している。当該年度は、解析の試験的実施、情報収集のシステム作りなど、スケールダウンした実験検討や書類準備を行った為、経費を次年度に持ち越す形となった。研究機器を新規購入せず他講座から借り入れることで大幅な経費削減を図れたことも理由の一つである。
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次年度使用額の使用計画 |
今回の次年度使用額は、人件費ならびに検体試薬、研究機器の費用に充当する予定である。
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